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剣崎比留子が帰ってきた! 奇怪な予言に翻弄されるサスペンスミステリ。今村昌弘 「魔眼の匣の殺人」感想

剣崎比留子にまた会える!

第二十七回鮎川哲也賞受賞作。奇想と本道が融和するミステリ「屍人荘の殺人」。
あの傑作がめでたくシリーズ化となり、待望の二作目が発売されました。

  • 一作目、「屍人荘の殺人」感想

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殺人シリーズ第二巻
今村昌弘 「魔眼の匣の殺人」

魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人


エンターテイメント性をそのままに、シリーズとして主人公二人の関係性や物語の骨子が整えられた。
珠玉のサスペンスミステリでした。
丁寧な伏線、筋の通った布石の数々。
読みやすい文体と、息をつかせぬ展開の面白さ。
そして相変わらず、舞台設定が秀逸。


ということで、雑文感想。

注1:続きものです。ぜひとも前作「屍人荘の殺人」から読んでください。
注2:極力ぼかして書きますが、どうしても前作「屍人荘の殺人」のネタバレが少々入ります。



あらすじ

「その里は、何という名前だったんですか?」
「真雁よ。それにちなんで私達はサキミ様の住処をこう呼んでいたわ」
 
『魔眼の匣』と。

紫湛荘で起きた事件の後、神紅大学ミステリ愛好会からホームズがいなくなり、名探偵が入部した。
一人減って一人増えたので差し引きはゼロ。
葉村譲と剣崎比留子。
相変わらず神紅のミス愛部員は二人だけだ。
だが、事件後の愛好会活動内容には新しい項目がいくつか追加された。
譲が比留子におすすめのミステリ小説を紹介すること。
そして、あのテロ事件を起こした遠因である『斑目機関』なる組織を調べること。

ある日、譲が見つけてきたオカルト雑誌の記事。
そこには「屍人荘事件が起こることは数ヶ月前から予告されていた」という事実が記されていた。
更に記事では『M機関』の名前とともに、機関がとある山奥の山村で予知能力の実験を行っていたことを告発していた。
比留子の調査により研究施設だった場所を探し当てた二人は、斑目機関の情報を得るべく現地へと赴くこととなる。
だが、たどり着いた里で見たものは想像を絶する予知の力であった。

数分後に起こる惨劇を予見し、スケッチブックに描き出す女子高生。
絶対外れることのない未来を予言するサキミ様。
建物入り口に置かれた4つの人形。
そして、死の予言を恐れ予言の期日が過ぎるまで里から退去した村人たち。

その日、人がいなくなった真雁の里に偶然訪れることになった九人の男女。
電話線が切られ、集落に続く唯一の橋が燃やされ、真雁の里に閉じ込められた彼らへサキミ様の予言だけが残された。
「あと二日間の内に、真雁で男女が二人づつ、四人死ぬ」





クローズドサークルに斑目機関のオカルトをもって見事なミステリドラマに仕立て上げてます。
王道のクローズドミステリでして、例によって例の如く建物前に置かれた人形はひとり死ぬごとに一つなくなります(;・∀・)
さてはて、予言とクローズドサークル。
いやぁ、こう読み終わってみると相性抜群でしたね。
「真雁で男女が二人づつ、四人死ぬ」
つまりこれは、「男女が二人づつ死ぬまで終わらない」ということです。
ということは?
「誰かが先に死んでくれれば、自分は死なずにすむ」ということでもありますね。
だけど、それの根拠が「予言」なんていう曖昧で信じ難いものなのです。

この「予言なんてものを信じれるのか」がとても大事なファクターでして。
最初は全く信じず馬鹿にしていた「予言」が、「実はあるかも」という疑念に変わり、「やはり予言は正しいのだ」という共通認識になっていく。
その上で、クローズドサークル特有の疑心暗鬼が増幅されていく。
とても面白い設定でした。

こういう「怪奇幻想ミステリー」「超常現象に振り回される人間たち」でいうと、綾辻行人の「霧越邸殺人事件」を思い出しますね。
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まぁ、あれはまた違った形なんですけど。
霧越邸は予言の仕様・・がトリックと密接に絡み合ってましたが、魔眼の匣では「予言とクローズドサークル」が舞台装置として機能しています。



シリーズの二巻目にふさわしいキャラクターの深掘り

新作ですよ新作!
前作感想で「次出しましょうよ」と願ったのが叶いました。
今後のシリーズ展開としては、クローズドサークル×超常現象での剣崎比留子の戦いを描くものになるのでしょう。
物語の持って行き方としては、超常現象研究に心血を注いだ秘密結社『斑目機関』の研究成果・・・・に、ミス愛の二人が関わっていく。
そして、その中で起こる様々な奇々怪々クローズドサークルミステリってのになるのかな?
『斑目機関』は綾辻行人の館シリーズにおける『中村青司』ですね。


さて、「魔眼の匣の殺人」です。
今作は、予言が重要となるクローズドサークルという形式をとっていますが、前作のように度肝を抜かれる奇抜で異様なものではありません。
言い方が難しいのですが、またしても異色でありながら、前作に比べると遥かに「読み慣れたクローズドサークルサスペンス」でした。
そして、どちらかといえば青春ジュブナイルやボーイ・ミーツ・ガールミステリの色が濃いです。
前作もそうでしたが、キャラクター性や読みやすい語り口、エンタメ性の強さを全面に押し出してきています。
すでに三作目の舞台が暗示済み(最後のページで次の事件を仄めかし)であり、それに向けて譲と比留子の関係性をしっかり積み上げにいった作品と言えるかもしれません。
前作の独白から、比留子さんの焦燥がホント伝わってくる。
葉村譲を巻き込みたくない。でも、一人ぼっちは嫌。
そんな中で自分の不甲斐なさを目の当たりにして。
楽しそうだった最初の描写から、事件が起こるごとに消耗していくホームズを今後ワトソンは救うことができるのか。


比留子の懺悔、譲の決意。
前回の事件で明智に別れを告げ、今回の事件でお互いの間にある大きな溝が明らかになった二人。
彼らの間に横たわる、「ホームズとワトソンのありかた」。
どちらがどちらを守るのか。そして「この人を巻き込んでもいいものなのか」。
それを今後シリーズ通して描いていくために、まず二人の土台をしっかり作ったのがこの第二巻「魔眼の匣の殺人」であったように思います。

今後の事件の中で比留子の特殊体質に対し二人がどのように立ち向かっていくのか。
探偵と助手のあり方をこの二人はどのような信頼関係で紡いでいくのか。
そういった関係性を交えながらのボーイ・ミーツ・ガールミステリとなりそうですね。
3巻も楽しみです。

全ては糾える縄のごとく

丁寧な伏線、布石。
そして全ての因果が最終的に折り畳まれる、考え抜かれたミステリは健在です。
展開がスピーディーであり、登場人物の良さも相まって一気に読み切らされて・・・・・・・しまいました。
とはいえ「パズル」か「ドラマ」かで言えば、ドラマに比重をおいてます。

そもそも、ハウダニット(どうやって殺したか)よりワイダニット(なぜそんなことをしたのか)が強調されている今作品。
「なぜそんな状況で殺人を犯すのか」を問う、ある種ミステリーあるあるへの挑戦とも受け取れるでしょう。
登場人物たちの思惑や感情が絡み合い、偶然によって事態が思いもかけない急転を見せ、そしてその全てに「予言」がくっついてくる。
彼らは「予言」によって振り回され、まるで「運命」であるかのように全ての意図が一本に紡ぎ合わされていきます。
閉じ込められた中で起こる事件と殺人。
「誰かが死ぬ」という予言が足音を立てて背後に迫る行き場のない焦り。
「誰が裏切り者なのか」「誰が手を下したのか」
クローズドサークルにおける「閉塞感の面白さ」って特別ですよね。


あと最後の最後、丁寧に張られた大一番の伏線回収には舌を巻きました。
なるほど・・・そうきたかぁ・・・・。
それは、そうね。
うん、こう書いておかないといけないよねここは。
そんなことを思いながら読み返す二週目。
ネタバレしないようにすると、感想書きにくいね(´・ω・`;)


アイディア一発勝負をセンスの力でぶん回した 「屍人荘の殺人」に比べ、登場人物の思惑が精緻に絡み合う本作。
人によって「屍人荘こそ至高」「魔眼の匣こそ本領」と評価が分かれることでしょう。
どちらも本格エンタメ・ミステリで非常に面白かったのですが、面白さの方向性は幾分違うように思います。

いや、しかし。
前作で上がったハードルをきっちり飛び越えてきたのはすごいなぁ。

比留子さんがかわいい

かわいい。
これは絶対言っとくべき。
クールだけどちょっと嫉妬深い、美少女探偵が好きな萌え豚は買え。

主人公をからかったり、ちょっと嫉妬したり、意外なところで抜けてたり。
そして自身の体質に悩んだり。

前作に引き続き比留子さんがかわいい。
これだけでも買ったかいがあった。

っていうか今村昌弘先生。ホント微に入り細を穿ち、そして思いもかけないところで萌ポイントしっかり抑えてくるよね。
もうかわいいしか言ってない気がするけど、今作もニヤニヤできていい感じです。
前作で比留子さんが気に入ったなら買いましょう。

総括

クローズドサークルを奇抜な舞台設定で至高のエンタメに仕上げる期待の新鋭の第二作目です。
凄まじい勢いで読みすすめてしまう文体の読みやすさと、矢継ぎ早に襲いかかる起伏の上げ下げは流石。
前作からシリーズ化に伴い、魅力的であった主人公二人の関係もより掘り下げられ、次巻への期待と愛着に心が湧きました。
内容としても、「クローズドサークル」というミステリジャンルの面白さが詰まっていて、前作より更にミステリ自体の完成度は高いと思います。
一方、やはり発想力やインパクトでは「屍人荘」の方が上だったかなという思いもあります。
ココらへんは、勢いで押すか巧妙さで魅せるか。痛し痒しですね。
さて、とはいえ驚愕の一巻、精緻なる二巻と来ましたので、3巻目はどうなることやら。
次の話にも期待したいと思います。


殺人シリーズ第2巻。
今村昌弘 「魔眼の匣の殺人」

魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人

おすすめです。
ぜひ「屍人荘の殺人」から読んでください。

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