citrussinのチラシの裏

ゲームや読書感想、日々のことを適当につづる日記。TwitterID @sinensis197

冤罪事件の真相を掴め。複雑に絡み合う人間模様が面白いミステリ小説 深木章子「殺意の構図」。 読み終わったので感想。

さて、前回までで深木先生の作品を2つほど読んできたわけだが
食い違う証言者の告白から真実に到れるか?深木章子「敗者の告白」 読んだので感想。 - citrussinのチラシの裏
離婚調停から始まる二転三転のサスペンスミステリ。深木章子「ミネルバの報復」 読み終わったので感想。 - citrussinのチラシの裏

この人の描く「人間模様」が結構好きなんですよね。
複雑に絡み合ったようでいて実はシンプルで。
人が人に嘘を付く、「思い込みを真実のように語ってしまう」ことを当たり前としていて。
元弁護士だからこその「様々な打算と懐疑に満ちた」嘘と思い込みが描かれている。
ミステリとしても、「心証が良い悪いと真実は関係なく、真実は”実際にあったこと”の積み上げでのみわかる」ことが面白い。
人が語るあやふやな証言のもと、二転三転する事件に振り回され続けるのは存外楽しいものだった。
まぁ、ミステリ部の落ちや構成に強引なとこや粗っぽいところがあり、そこは賛否両論あるだろうけれど。

ということで、カチャカチャと他作品をググったら「殺意の構図」ってのが面白いらしい。
いいじゃんいいじゃん。図書館の棚においてあった覚えがあるわ(゚∀゚)
ってことで、借りてきました。
で、さくっと最後まで読んだ。 
あ~、コレ読んだ3作品の中で一番好きかもしれない。

ということで、手首のモーターをフル稼働させて手のひらを返しまくる”心証”ミステリ
深木章子「殺意の構図」

殺意の構図 探偵の依頼人

殺意の構図 探偵の依頼人

雑記感想。

注:この記事は「殺意の構図 」の致命的でない軽いネタバレを含みます


あらすじ

全ては調査依頼の電話から始まった。
探偵の榊原は、関係者たちに一つ一つ丁寧に「何が起こったのか」を聞き、整理する。
それぞれの死と、それぞれが語る疑惑、そしてたしかに起こった事実。
彼らの証言を重ね合わせ輪郭を見い出せば、そこに隠れていた「殺意の構図」が見つかるはずだ。

始まりは冤罪事件であった。
金に困った夫と、放火された妻方の実家、妻の父親の焼死体。
嘘をつき続けるどう考えても怪しい夫。
弁護士もさじを投げかけていたが、裁判間近になり事態は急変する。
夫が勾留されている間に起こった妻の事故死によって、夫が観念したように「アリバイがある」と語りだす。
「妻には知られたくなかった。しかし、彼女が死んだ今となっては・・・・」
その鉄壁のアリバイを持って、彼は無罪を勝ち取ることとなった。
だがしかし、劇的な無罪判決から16日後、今度は夫の死体が別荘で発見される。

あの冤罪事件で本当は何があったのか。
夫が無罪だというならば放火の犯人は誰なのか。
そして、なぜ夫は死んだのか。
次々に覆されていく「事件の構図」が全ての収束を見せた時、驚愕の「殺意の構図」が現れる。



いやぁ、なんつうかなぁ。
手のひら大回転
って感じでした。
心証は当てにならんな。
「XXさんが悪い人みたいだから、XXさんが何かやったんだろ」とか
「○○は後ろ暗い過去があるから、今度もきっと○○の仕業だろ」とか。
そんなことは真実にとってどうでもいいんですよ。
もう、ほんと振り回されまくりました。
シンプルに考えりゃよかったんだよシンプルに。

第一章で「こいつが怪しいよなぁ」って方向で話が進んでたら、第二章の語り部がその「こいつ」になるんですよ。
その「犯人候補」が必死に「だれが犯人なのか」を頭抱えて悩んでいるわけで。
おおう、どうすんだよこれ(´・ω・`)
気持ちよく遠回りさせられて、最後にすべての蓋が開いたときはニヤッって笑っちゃいました。
やっぱこの作家さんの振り回しは素敵。

人の印象はあてにならない。それが自分自身であればなおさら。

ぜひ語り部に感情移入して読んでもらいたい。
この作者さんは、ディテールや舞台などの外側要因にはそっけなく、ただただ真摯に「関係者たちの内面」を描く。
相変わらずのミステリ部やオチの粗さや強引さはあるけど、本当に人物像が細部に渡って緻密。
特に「印象」や「思い込み」による相互不和がよく出来てます。

みんながみんな自分勝手に「真相はこうではないか?」と一側面の事実のみで犯人を決めつける。
語り部が変わるその度に事件の姿が代わり、気持ちよく振り回してくれました。
いやぁ、終わってみれば本当にドクズだな犯人。
印象的な言い回しとして「きっと~だから、XXなんだろう」みたいな言い分を関係者がみんなするんですよ。
で、それが証言していく中で「きっと」から「おそらく」になって、最後はまるでそれが事実のように語り始めるんですよね。
いやぁ思い込みって怖いなぁ。

最初に弁護士の独白の中で「冤罪事件は怖い」って話がされるんですよ。
「たとえ無罪を勝ち取っても、世間は”逮捕されたことがある”というレッテルを貼って色眼鏡で見る」って話。
ほんと、そのとおりだと思いました。
誰しもが前情報と心証をもって、その人をハナから色眼鏡で見る。
片側の意見を聞いただけで全貌を知った気になり、他者の行いを「もしかしてこういうことかもしれない」から「こういう事が起きたに違いない」にすげ替える。
それが「自分で考えたことになっている・・・・・」ならばなおさら。
印象だけのあやふやな考えが真実であると錯覚する。
最初は仮定だったのに、いつの間にか結論になっている。
自分ではよく考えたつもりで語ってるのに、あからさまに偏見に溢れた結論に至る。
特に第二章からの転調、そして第三章の対決にいたる急降下には参りました。

順当に考えりゃ間違いなく振り回されるようなことはなかったはずなんです。
それでも、キャラクターの緻密な描写と情報を出す順番が上手いせいで、徐々に「コレが正しい」に囚われてしまった。
一貫して怪しい人物はわかっているのに、それを次々に出てくる真実が覆い隠していった。

総括

鋭い人間描写。幾重にも織りなされる思い込み。
二転三転する真相に振り回されながら、最後まで楽しんで読めました。
まぁ相変わらず一部詰めが粗いというか露骨というか、”骨格”をほったらかしにするため人の合う合わないはあると思いますが。
ただ、それは本題じゃないんです。
事件に翻弄される人間描写と犯人の悪辣さが描かれており、それに巻き込まれた各人の心情に沿いながら読むのが楽しいミステリでした。

深木章子「殺意の構図」

殺意の構図 探偵の依頼人

殺意の構図 探偵の依頼人

気になる方は手にとって見てください。

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