citrussinのチラシの裏

ゲームや読書感想、日々のことを適当につづる日記。TwitterID @sinensis197

初めてミステリに踏み入れる際にもおすすめ。綾辻行人の良作ミステリー、霧越邸殺人事件を読んでみよう。

綾辻行人といえば作品”Another”が有名だと思います。アニメ化もしましたし。
アニメのできも良かったし、「Anotherなら死んでた」とかいうバズワードも作られたし。
初めてラノベ読みが読むとしたらおそらくAnotherを読むんじゃないかなと思います。
アニメでもいいよ。

Another(上) (角川文庫)

Another(上) (角川文庫)

 
この綾辻という作家さんは非常に叙述トリックが大好きで、そのトリックを使ったどんでん返しを好みます。
なので、読者への挑戦よりもあっと驚かすためのエンターテイメント性が強い。
個人的に「ミステリは悩まず即回答編を観ます」という人は好きなんじゃないかなと思ってます。
しかし、綾辻さんの作品に触れる際に困るのはシリーズものが多いという点。
気に入ったならいいけれど、とりあえず一冊読みたいという時には困りもの。
じゃあ、アニメAnotherを見るか、霧越邸殺人事件でもどうですか。
というのが今回の趣旨。
ちなみに綾辻さんいわく、
『霧越邸殺人事件』は本格に七、怪奇幻想に三、『Another』だと本格が三、怪奇幻想が七くらい
だそうで、ミステリの入り口にも最適ですよ。

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(上) (角川文庫)

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(上) (角川文庫)

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(下) (角川文庫)

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(下) (角川文庫)


注:出来れば完全改訂版を買っていただきたい。



ラノベ読みや堅苦しいのが嫌いな人にもおすすめ

ミステリの根幹部分にファンタジーが絡んでくるこの館ものは、がちがちなミステリとは一風変わっており物語として楽しめます。
本格としては弱いと初期書評でいわれたそうですが、そこがいいと私は思います。
がちがちなミステリは一つ一つ情報を整理し全身全霊で作者に挑まねばならず、論理的帰結を求めるあまり往々にしてエンターテイメントの枠から外れパズル的な楽しさに陥りがちです。
この作品は、数々の演出を見ると本格ミステリとしての体裁がありますが、犯人のトリックよりも、館の怪しさやそこに至る過程を重視しており、犯人探しにこだわらずに読めます。次がどうなるのかを主人公目線でドキドキしながら進んでみましょう。

霧越邸殺人事件ってどんな話?

吹雪の山荘ものの名作です。
吹雪の山荘ものってのは、ほらあれです。天候とか土砂崩れとかでロッジや屋敷に閉じ込められた人々の中に殺人鬼がいるってやつです。
一般でも知られているのは「かまいたちの夜」とかかね。

ストーリーとしては1986年の晩秋に起きた事件を主人公が回想する形で話は始まります。
1986年、晩秋。主人公が所属する劇団の一行が吹雪で遭難し謎の洋館「霧越邸」を訪れます。
何とか避難をさせていただくものの、洋館内の家人は対応が冷たい。
さらに邸内で発生する不可思議な現象の数々。
劇団員の訪れを予見していたかのような調度品から始まり、殺される人々を暗示するかのような現象が館で起こります。
なんと霧越邸は館自身が館内の人々を予期し映し出すのだそうです。
童謡に見立てて殺されていく劇団員。館内見え隠れする何者かの怪しい影。不可思議なことが起こる霧越邸。

れっきとした論理的推理と、館が予言した幻想的推理の両面から犯人に迫れるミステリの傑作となっています。

ゾクゾクする奇妙な殺人事件

anotherに比べ怪奇幻想が3と作者綾辻さんはおっしゃっていますが、その3のゾクゾク感がいいです。
何か不可思議で奇妙なこの霧越邸は、この訪問者たちの全てを映し出す鏡として機能します。
次々と暗示される被害者の最後、そして童謡に調べを載せる見立て殺人。
雰囲気たっぷりのホラーミステリが楽しめます。
ただ、このホラーは「奇妙な」という意味であり、所謂幽霊のような非科学的現象じゃないのが特徴。
犯人はれっきとした人間で、ちゃんと理論的帰結がある点がすごくいいですね。
(私は怖がりなので、ホラーものは苦手)

正統派ミステリとしてしっかりしているのに、全てが終わり振り返るとこの奇妙な館に全登場人物が振り回されていたと感じる。
その不可思議さの中での殺人事件がこのミステリを独特の良作にしています。


犯人探しは主体じゃない

劇団員と一緒にこの不可思議な霧越邸にたどり着いたあなたは、きっと霧越邸への理解を望むでしょう。
何が起きているのか、何が起ころうとしているのか。
ある意味この作品で論理的に犯人探しをしようとするのは愚策かもしれません。
それよりもっとこの不可思議な館を理解してみてください。
そして、最後のどんでん返しを驚いていただきたい。道中は犯人探しよりもそれぞれの不可思議に意味を求めてみる方が面白いでしょう。
そもそも綾辻さんの作品によくあることですが、ストーリーの面白さのために堂々と犯人がわかるヒントをさらけ出しています。犯人探しは主体じゃない。
とはいえ、論理的推理から導かれる答え、叙述トリック、館の見せた予期さまざまな方向から探ってみて、犯人に行きついもそれはそれで楽しめると思います。その場合は動機探しにも躍起になりましょう。

私の特におすすめする見どころは3つ

  • 見立て殺人の意味
  • 館の予言
  • なぜ犯人は犯人だったのか


気味の悪い、でもすごく惹かれてしまう霧越邸に誘われ、しばし時を忘れてみてください。



霧越邸殺人事件<完全改訂版>(上) (角川文庫)

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(上) (角川文庫)

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(下) (角川文庫)

霧越邸殺人事件<完全改訂版>(下) (角川文庫)

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