ヴァンパイア十字界
スパイラル ~推理の絆~
絶園のテンペスト
とガンガンの”二味以上変わった”良作コミックの原作を手掛けたことで名高い作家「城平京」
その根底にあるのは、悲壮なまでに覆し難い運命に抗う主人公。
楽しみ方がわかりづらく、ある種バッシングを受けかねないあらゆる意味で挑戦的な作風。
- 二転三転する”真実”に、そしてどうしようもない運命に、それでもと立ち向かう「ヴァンパイア十字界」
- 抗えない運命に直面しながらも毅然とするストラウスがかっこよすぎ
- わかりやすい真相が更なる別の真相に覆され、”正しさ”が二転三転して敵と味方がごちゃごちゃになるストーリーが秀逸
- 作者: 城平京,木村有里
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2003/12/22
- メディア: コミック
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- 神の頭脳に定められた結末を覆すために抗う「スパイラル ~推理の絆~」
- 真実って、世の中って簡単じゃない。当たり前に”どうしようもない”事実へそれでも立ち向かおうとする探偵もの。
- 漫画は途中から知能ゲームになっていくので、ミステリ期待の人は小説版読みましょう。漫画版も小説版も独特の面白さが有ります
- 作者: 城平京
- 出版社/メーカー: エニックス
- 発売日: 2000/02
- メディア: コミック
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- 思考実験を繰り返しながら”最悪の中の良き道”を探すファンタジーミステリ「絶園のテンペスト」
- どちらを選んでも最悪であるという選択肢を突きつけられ抗うファンタジー
- こっちもスパイラルと同じく、ミステリ部分よりも知能ゲームやそれにそうやり取りを重視した内容で好きな人にはたまらん作品
- 作者: 城平京,左有秀,彩崎廉
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2010/02/22
- メディア: コミック
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駆け引きと優れた頭脳をつかっても儘ならない世界で、それでもうつむかずに前を向こうとする者たちの物語は悲壮であるがゆえに美しい。
そんな城平京さんの小説「名探偵に薔薇を」。
読み終えたので短文感想
- 作者: 城平京
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1998/07/19
- メディア: 文庫
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注:この記事は「 名探偵に薔薇を」の致命的でない軽いネタバレを含みます
あらすじ
始まりは、各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。
おぞましくおどろおどろしい一編の童謡は復讐を誓った小人による殺人劇。
ある日、三橋荘一郎は不審な男に「小人地獄はご存知か?」と問われる。
そして、童謡の内容をなぞるかのように、彼が懇意にしている藤田家の奥さんが殺される。
被害者「藤田恵子」は過去に抹消された「小人地獄」という毒薬の関係者だった。
ついで第二の殺人事件が起きる。これも「小人地獄」の関係者。
童謡の中で小人に殺されたのは3人。残りは後1人。
最後には、三橋が出会った不審な男が藤田家に現れて、「残りの一人は藤田の娘だ」と告げてきた。
にっちもさっちも行かない状況に、三橋荘一郎は友人である「名探偵」に助けを乞うことになる。
ーーーー第一章「メルヘン小人地獄」
小人地獄事件を解決に導いた名探偵「瀬川みゆき」
彼女は、その聡明な頭脳を用いて「真実を暴き出す」
しかしそのために犠牲にしたものは数多く、トラウマとなって彼女自身を苦しめる。
果たして、真実は”暴くべき”なのか?
答えが出ないまま世界中を放浪していた彼女は、日本で起こった事件を耳にする。
「藤田家で、また小人地獄を用いた殺人が起こった」
友人の三橋の元を訪れた彼女を待っていたのは、あまりにちぐはぐで奇妙な事件だった。
果たして”本当は”何が起こったのか。
そしてこの真実は明らかにすべきなのだろうか。
ーーーー第二章「毒杯パズル」
ということで二部構成によるミステリ。
とはいえ、元々は第二章「毒杯パズル」が描かれて、単行本化するときに前日譚となる第一章「メルヘン小人地獄」が追加された形。
なので第一章は”わかりやすい”ミステリで、その猟奇さに隠された”事実”を見据える内容。
とはいえ、城平京の真骨頂は当然「わかりやすい探偵もの」や「白黒付けられる作品」ではありません。
「毒杯パズル」
こちらが本命。苦悩と悲壮に彩られた、美しき「名探偵の物語」。
賛否両論起きるでしょう。下手すると「全く意味の分からない作品」と言われてもおかしくない持っていき方。
ああ、たしかにこれはスパイラルや絶園のテンペストの不条理感が漂いますなぁ。
逆に考えると「ヴァンパイア十字界」は分かりやすかったと誉めるべきかもしれん。
「名探偵」とはなんぞやと、真実とは暴かれるべきなのか?と。
犯人が捕まえれば全て解決なのかと。
そんな簡単なものじゃない不条理な世界が待ってます。
非常に読みやすいテキストと、サスペンスミステリの楽しさが詰まった第一部
思うに、難解かつ正着を取らないこの人の作品が、ココまで楽しめるのはテキストがいいからだと思う。
微に入り細を穿ち、難解なテーマにそぐわないレベルで読みやすい。
毒杯パズルほどではないが、一章もかなり読みづらいトリックであることに間違いはないが、それでもスルッと入ってくるテキスト感が嬉しい。
かなり単純かつ、シンプルなトリックを複雑な迷彩で隠すという手法を用いているが、巧妙なドラマ性で唸らせてくれる。
謂わば「トリックは典型的だが、そこに至る演出がうまい」と言うべきか。
トリック自体は舞台設定と毒杯パズルにつなぐための装置であると考えるのが適切だが、そこに至るまでの謎めいた「小人地獄とその連なり」についてのストーリーの持っていきかたが素晴らしい。
小人地獄というマクガフィン的設定と、武林善造と血の連なり、”完全犯罪製造機”小人地獄に魅せられたものたちの物語として一種のドラマが背後に築かれている。
「不審な男」のキャラ作りや、名探偵を呼ぶまでに追い詰められる焦燥感のが上手く書けており、どんどん藤田家と三橋が雁字搦めに閉じ込められていく様は、たしかにサスペンスであり、ミステリー。
のそっと、大胆不敵に警察が警護する藤田家に現れ、とどめをさしにきた「不審な男」にはスプラッタホラーの殺人鬼もかくやあらんと思わせるような、得体のしれなさが際立っていた。
そして、そこに颯爽と現れ、「得体の知れない巨悪」を「ただの愚物」に陥れ、全てを暴いてしまう瀬川みゆきの鮮やかさがとてつもなくかっこいい。
童謡から得られる「知られなかった真実」や、各所の得体のしれなさの正体を詳らかにし、「君は化物ではなくただの人間だ」と言わんばかりに叩きつける姿はまさしく「名探偵」。
やはり、城平京の描く「カッコイイヒロイン」はとてもかっこいい。
三橋へのさりげない優しさ。不安に押しつぶされそうになる藤田鈴花への気遣い。
各所ににじみ出る男らしさと女らしさが、瀬川みゆきの魅力を伝えてくれる。
このキャラ作りの巧妙さと、ドラマを作り出す構成力がこの人の魅力だろう。
とはいえ単体でも確かに面白いが、やはり第二部とあわせて読みたい事に変わりはない。
なにせ、この第一部は”毒杯パズルを盛り上げるために新規描き下ろしされた”のだから。
このかっこよさ、鮮やかさ、そして小人地獄の得体の知れない「つながり」を最大限に堪能した後だからこそ「毒杯パズル」のどうしようもなさや無力感が引き立つというもの。
ぜひぜひ一気に第二部まで読んでいきたい。
至高のワイダニットを提供する第二部
どこからどこまでもちぐはぐで奇妙でどうしようもない毒杯パズル事件が第二部。
この題名「パズル」に表されたとおり、駒を進めていくごとに最初の意味の分からない図形が様々に形を変え、そして真実の姿が最後に解放される。
そこにあるのは、至高のワイダニットであり、第一部が合ってこその「意外性を持った上で説得力がある結末」と言える。
ぜひぜひ第一部を読んでからそのまま入っていただきたい。
提示される謎や、二転三転する”わかりやすい”動機が真実を覆い隠し、名探偵を押しつぶしていくさまは、まさに城平京節炸裂といったところ。
ある意味「名探偵を絶対神聖視」する系のミステリではありえない、人間臭さゆえの失敗と思い違い、掛け違いによって瀬川みゆきが千々に振り回される様が描かれる。
名探偵としての心情や苦悩が描かれ、どこまでも悲壮に落ちていくさまと、それでも前を向こうと食いしばる姿は、やはりコレは「名探偵もの」なのだなと思わせてくれた。
最初の内から犯人は予想がつき、そしてその予想は覆られない。
覆せないと言ってもいい。
あまりに意味が不明な動機。殺人の手法も奇妙なまでにチグハグであり、そこにいたる正当性が全く絶たない美しいまでのWhydunit(なぜこんなことをしたのか)。
最後の終わり方を含めてあまりの救いの無さは、ある意味人を選ぶかもしれない。
”ワイダニット”を最後まで私は推定できなかったが、その犯行動機が明かされた瞬間
「ああ。。。。。。うわぁ。。。。」
ってなった。
いや、もはや、この言葉がすべての感想と言ってもいい。
容赦ねーな。まじで。
ある意味最初に上げたコミック作品を先によんで合う合わないを考えたほうがいいのかもしれない。
いやさ、最初にこの「名探偵に薔薇を」を読んでファンになるのも素晴らしい考えではあるが。
人を選ぶが、好きな人は好き。
そう言って差し支えのない、どこまでも城平京な第二部。
そして、まさに「名探偵に薔薇を」の名にふさわしい内容であったと思う。
総括
城平京が放つ悲壮な名探偵物語。
推理モノでも、サスペンスでも、ミステリでもなく、「名探偵物語」というのが肝。
満点レベルの読みやすさと、微に入り細を穿ったエンターテインメント性。
そして、やはり城平京はヒロインがイケメン。
強さも弱さもたっぷりの魅力が詰まった瀬川の物語であり、ミステリや推理を期待して読むと???となるかもしれない。
そして、終わり方はただただ悲壮なまでに物悲しい。
運命に抗う。どうしようもないものをどうしようもないと自覚するというのはスパイラルに継がれる。
ああ、そうね。
これは城平京の作品だわ。
ぜひとも「答えを出したら、それでいいわけではない」というどうしようもなさを味わっていただきたい。
- 作者: 城平京
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1998/07/19
- メディア: 文庫
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