citrussinのチラシの裏

ゲームや読書感想、日々のことを適当につづる日記。TwitterID @sinensis197

米澤穂信 〈ベルーフ〉シリーズの原点「さよなら妖精」は古典部シリーズファンなら読んでおこう。

米澤さんの作品は好きです。
特に古典部シリーズが大好きです。
ついでに過去記事でも折れた竜骨を紹介してたりします。
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で、で、で、
古典部ファンなら読んでおきたい米澤穂信作品といえば〈小市民〉シリーズも挙げられるでしょうが、やはり私はこれ。

さよなら妖精。

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

 


古典部シリーズ3作目として書き始めたが、事情があり別シリーズとして世に送り出された作品です。
現在2作出ているベルーフシリーズの0巻目としての位置にもあります。

べルーフシリーズを読み進めるうえでもぜひ先に読んでいただきたい、名作です。
おすすめ。

あらすじ

1年前出会い、そして帰って行った女の子、マーヤの行方を守屋路行は捜します。彼女とのいくつもの思い出と、いくつもの”なぜ?”を抱えながら。

1991年4月の雨の日、高校3年の守屋路行と太刀洗万智は学校からの帰り道、ユーゴスラビアから来た少女、マーヤと出会います。
小さな謎「さっき傘を持っているのに差さずに走っていた男性がいた」を紐解きながら、マーヤと仲良くなる二人。
マーヤの困りごとー泊まる場所がないーを助けたことをきっかけに、同級生の白河いずる、文原竹彦も一緒になりマーヤと親交深めていきます。
マーヤの目的は将来自国の政治家になるために、世界の国々でその国の機微に触れること。
マーヤの目的のために守屋たちはいろいろな場所に連れて行きます。
行く先々で小さな謎に出会い、人の心の機微に触れていき、そしてマーヤは言うのです。
「それに哲学的意味はありますか?」
しかし楽しい時間は終わり、マーヤも帰郷の時が訪れます。しかし、時は1991年。ちょうどユーゴスラビア紛争が起こった年です。
紛争はユーゴスラビアを分割しました。マーヤはユーゴスラビアのどの国に帰ったのでしょう。


☆古典部シリーズとの差異
守屋路行が折木奉太郎、マーヤは架空の国の留学生で最初は書いていたそうです。
白河いずるが、えると摩耶花、文原竹彦が里志です。
「それに哲学的意味はありますか?」は「私気になります!」ですよね。
本来なら、古典部シリーズの大きな転換点、または完結編となるところでした。
しかし、レーベル休止に伴う古典部シリーズ中断。
別作品として改稿して出版されたということです。


遠い国の戦争

この作品は、小さい謎がいっぱい詰められていて、それも楽しみです。
「なぜ男2人組が神社に餅を持っていこうとするか」
「墓になぜ幸福饅頭が供えられていたのか」
様々な状況に出会い、そのたびに小さなミステリーが生まれます。
それにマーヤが問うのです。
「それに哲学的意味はありますか?」
日本とユーゴスラビア、あの国とこの国。ある人が見たときと、別の人が見たとき。
いろんな見方や考え方を楽しむのもありです。

しかし、本題は別だと思います。
1991年におこった、30越えなら全員知っている遠い遠い国の戦争。ユーゴスラビア紛争。
25近くなら紛争末期に小学生でしょうか。
ミステリーで読むならば、「マーヤはどの国に帰ったか」
マーヤの言葉の断片、表現の方法からそれを探り当てていくことになります。
私たちはこの紛争の行方を知っています。
どの国がひどい状況になり、どの国がいち早く離脱できたか。
さて、マーヤはどの国に帰ったのでしょうか。
守屋とともにマーヤの国を当ててみてください。

そしてお話として読むならば、私個人は「ユーゴスラビアは何を思ったか」を読みました。
マーヤに「観光気分」と言われた瞬間に守屋と同じくドキッとしました。
当時の小さい私にとってユーゴスラビア紛争は新聞やTVの中の出来事で、やがて歴史の授業の出来事で、
最後はテストの回答欄に答えを書き込んだだけの出来事でした。
なぜ戦争が起こったかさえピンときませんでした。板書を映して終わり。
哲学的意味を必死にメモに取るマーヤ。紫陽花のバレッタを無邪気に喜んだマーヤ。守屋をさみしそうに諭したマーヤ。
そして、ユーゴスラビアという国はないと言い切ったマーヤ。
長く時が経ちましたが、回答欄以上の意味を私は見いだせたのでしょうか。わかりません。
皆さんはどう読むのでしょう。


この作品はフィクションとして読んでもいいと思います。
ノンフィクションと絡めても面白いと思います。
ミステリーとして読むのが正道でしょうか。
邪道としてマーヤや大刀洗まちのかわいさを熱く語ってもそれはそれでよいと思います。
好きに読めて、好きに考えて、好きに解釈して。それでもおそらく回答欄以上の何かが得られるのではないでしょうか。


さて、マーヤはどこに帰ったの?編を読み終えたら最後の守屋と太刀洗まちとの話も必見です。
今後つづく大刀洗まちを中心としたベルーフシリーズ。
彼女の立脚点となった出来事でもあります。
ちなみに、続編「王とサーカス」では”遠い国の話を自分がどう受け取るのか”を主題にしたと米澤さんはおっしゃっています。
彼女の魅力、今後続くシリーズの根幹。そういう意味でも楽しめるのではないでしょうか。





さよなら妖精
ミステリ好きも、そうでない方も必見です。

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