citrussinのチラシの裏

ゲームや読書感想、日々のことを適当につづる日記。TwitterID @sinensis197

思春期は痛みを伴う。ラブコメ×SFミステリラノベ鴨志田一の「青春ブタ野郎シリーズ」はラノベらしさとSFミステリのエンタメ性を掛け合わした傑作。

わたしはね、咲太くん。人生って、やさしくなるためにあるんだとおもっています。
やさしさにたどり着くために、わたしは今日を生きています。

学生時代の葛藤は決して大人たちにはわからない。
悩んでいたことも、内容も彼らはみんな忘れてしまって大人になっていく。
でも、みんなにもあったはずだ。
あの、謎めいていて、不思議で、奇妙で、違和感があるけれど、とてもキラキラしたものもあった日々が。
ということで鴨志田一の傑作エンタメラノベ、青春ミステリーSF「青春ブタ野郎シリーズ」がめっちゃおすすめです。

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない 『青春ブタ野郎』シリーズ (電撃文庫)

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない 『青春ブタ野郎』シリーズ (電撃文庫)

追記:2018年10月アニメスタート。みんな原作も読もう!


鴨志田一といえばアニメ化もした「さくら荘のペットな彼女」で有名ですね。
アレも素晴らしい作品でした。ただ、非常に主人公の置かれている立場やヒロインとの位置がもやもやする作品で、なかなか精神的にきつい場面も多々あります。
青春ブタ野郎シリーズのほうがエンタメより。
鬱屈とした学生の不安や不満を成長につなげる爽快感のある物語ならば、さくら荘が非常におすすめです。

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)

アニメが原作に関係ない事情で炎上したのは非常に残念でなりません。

さてこの青春ブタ野郎シリーズには巻数がついていません。
そのせいで読む順番を間違える人がいますので下記注意。

※注 必ず気をつけること
この作品には巻数がついていませんが続きものです”絶対に”この順番で読みましょう

  • 1巻 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない
  • 2巻 青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない
  • 3巻 青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない
  • 4巻 青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない
  • 5巻 青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない
  • 6巻 青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない

そして購入したら貪るように最新刊まで一気に読みましょう。
最後まで読み終えたら、私ととも叫ぶのです。
あんなところで終わらせやがって!
はよ7巻だしてくれ!!

7巻が待ち遠しくてたまりません。2016年10月発売予定だそうです。
ちなみに不自然に登場するモブは、前作さくら荘のキャラのその後です。
さくら荘ファンは必見。
そして、学園祭も不自然に飛ばされますが、これは多数決ボイスドラマ「青春ブタ野郎は文化祭ヒロインの夢を見ない」で語られました。
ニコニコ生放送の企画ですので、できれば短編集として発売して欲しいナー。


あと、申し訳ないのですがどうしてもちょいネタバレ入ります。
2巻以降の話、特に佳境に入る5巻以降の話をしようとすると幾つかのネタバレをしないと一切語れなくなるため。



あらすじ

――「思春期症候群」。
それはまことしやかに噂される都市伝説。ただのオカルト話。例えば「他人の心の声が聞こえた」、たとえば「誰々の未来が見えた」。そんなにわかには信じがたい都市伝説の類。
でも、峰ヶ原高校に通う梓川咲太は違う。
確かに思春期症候群は確かに存在していて、それを解決できないせいで彼の家族はばらばらになった。
そしていまだ胸に残る確かな証拠。
でも、誰も信じてくれなかった。たった一人で立ち向かい負けてしまった彼は周りから浮いた存在になっていた。
そんな5月、つまりゴールデンウィークの最終日。咲太は図書館で、野生のバニーガールと出会ったのだった。
彼女は言った。
「驚いた。君にはまだ私が見えるんだ」


第一巻開始ページに書いてありますが、この物語は

つまるところ、これは僕と彼女と彼女たちの恋愛にまつわるよくある話

となります。
思春期の認識が巻き起こす思春期症候群と、それに巻き込まれた主人公たちの物語。
似たプロットで有名な作品を上げますと、”ダ・カーポ”シリーズや、西尾維新の”物語”シリーズですね。
ペルソナ3やペルソナ4も有名です。
1巻のヒロインとそのまま恋人になり早々とハーレムに決着をつけ、次の巻からのヒロインはサブヒロインになって勝ち目がないというのも結構使われますね。ハーレムものを書くときの一つの回答です。
物語シリーズやSAOシリーズなんかが定番。
この形式はねー、のちのち出てくるヒロインが可愛ければ可愛いほど胸に来るものがあるんだよなぁ。
とはいえバニーガールの桜島 麻衣が非常に魅力的なので理不尽さはありません。
好きな彼氏の自宅で浮気現場を目撃した際に、怒って帰るのではなく、チェーンと鍵をかけて彼を閉じ込める。そんな桜島麻衣が大好きです。
凛として、気が強く、自分に自信があっていつもクールなんだけど、実は主人公のことが好きで好きでたまらなく、不安になってしまうちょっと愛が重いヒロインです。

青春が生み出す残酷さと素晴らしさをうまく表現したエンタメ

妹へのLINE等を使ったネットいじめが過激化し、ついにはその悪口自体が実際の刃となって体を傷つける。
でも、多くのクラスメイトは見て見ぬふり。
そして、傷つけた体を見ても「あの子は自傷癖がある」としてレッテルを貼る大人。
子供の悪意と大人の”常識”というものに振り回されてしまうのが学生の辛いところ。
本当だという言葉を信じてもらえず、結局信じないことが正しいような風潮になります。
そうしていつの間にか迫害され、とうとう心を壊して家族がバラバラになった主人公。
5巻で明かされたいじめた首謀者たちのその後もなかなかいたたまれません。
”何もしなかった子”がさも正義のように振る舞うのはなんだか頂けない気がします。

例えば”あいつに話しかけるのはイケてない”なんていう”空気”が蔓延し学内で無視され続けるバニーガール。
例えば”クラスのグループの力関係”に悩み、どうしようもない袋小路に追い込まれるプチデビル
例えば”自分を傷つける行為をやめられない”悩めるロジカルウィッチ
彼女たちの悩みや焦燥感は行き場のない鬱屈となり思春期症候群を巻き起こします。
大人にとっては意味のないものと思うかもしれない。でも子供時代、世界が狭く大人と学校しかない時代、かけがえのない大切なモノがそこにあるのです。
この作品はそんな子供から大人に移行していく間に起こる様々な問題を”思春期症候群”として具現化し、うまく青春エンタメとして描いています。
特に読まなくてはいけない”空気”への反論が多いかねー。
解決にならない解決を追い求め、なんとか彼女たちの問題を取り除き、思春期症候群を収めていく物語はなかなか痛快なものがあります。


巧妙にねられたプロットと伏線によるミステリ

SFとしての趣も強く、ミステリ要素も合わさっている本作は、最初から非常に多くの謎がさり気なく散りばめられており、一冊ごとに伏線を回収していきます。
このプロット力はさすが鴨志田一といったところですかね。
思春期症候群が”周りと自分の認識から起こる現象”ということを3巻掛けて丁寧に落とし込み、落とし込んだ現象について6巻でひっくり返すのはなかなかおもしろい趣向でした。
”なぜ主人公以外の思春期症候群は全員女の子がかかっているのか”とかをきっちり設定に落とし込みトリックを仕掛けたあたりが挑戦的。
6巻最初でなんとかトリックを読み切り、ちょっとご満悦。
説得力を出すための設定とプロットが非常に綺麗にできており、複雑になりがちなSFをうまく説明しています。
1巻で、”思春期症候群の基本は周りの認識と自分の認識である”という定義、”思春期症候群をほっておくと非常にまずいことになる”という示唆を示します。
そもそも主人公は思春期症候群によって家族をばらばらにされているわけで、ほっておくとまずいのはわかりきっているのですが、その真相は5巻で明かされるため1巻では提示できません。
そこで1巻の思春期症候群はギリギリまで主人公が解決できず、行くとこまで行きます
これによって思春期症候群の恐ろしさ、他者の関心の無さを示されました。
で、続く2巻で”思春期症候群にはある種の理屈が通る”ということが示されます。
1巻から、主人公の親友である理系天才の双葉が解説役として登場し、一定の理論と法則を築いていくことになります。
そして3巻で双葉自身が思春期症候群にかかることによって、理論がほぼ完成されます。
つまり思春期症候群の原因と解決策を模索するためのミステリが成立します。

読者とのあいだに交す約束事さえしっかりしていれば、その約束事がたとえこの世のものでなかったとしても、ミステリは成立する。
米澤穂信作 折れた竜骨でのあとがきより

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これによって読者に先を予測させる楽しみや、予測してしまったからこその絶望を提供できるようになっています。
例えば5巻ね。おるすばん妹の思春期症候群の解決手段に途中で気がついてしまった時は絶望しました。
いやだいやだと奇跡よおこれと滂沱の涙を流しながら最後まで読みました。
でも奇跡ってないよね。動いたとおりにしか世界は動かないのです。
どう逃げてもぶつかるどうしようもなく高い壁ってのが青春エンタメですよねー。
更に6巻ではもっと多くな絶望が襲う。4巻までで大量に伏せた伏線を5から6巻で一気に回収していきます。
できれば5,6巻は時間をとって一気に読んでいただきたいところ。

魅力的なヒロインたち。

メインヒロインは当然かわいい。こいつに力を入れていることがよくわかります。
それだけでなく、この作品のヒロイン勢には”単なる記号ではない萌”が描けているのが素晴らしい。
例えばロジカルウィッチで描かれた双葉の悩みはおそらく賛否両論になるでしょう。潔癖症な方やゆるゆると可愛い女の子を楽しみたい方には合わないかもしれません。
でも、そのエピソードもリアルに”双葉”を作る要素になっています。
はじめはただのクール系科学者キャラかと思ったら、非常に心が弱く、勉強に支えを求め、親友というものを大事にし、そして恋に絶望した普通の女の子でした。
言葉では表せない”双葉”というキャラクターが形作られていて、決して記号化できない魅力があります。
”萌え記号”を使いテンプレート化したキャラクターで和気あいあいとさせるのも一定の需要がありますが、私はこういう”言葉にならない”ものが大好きです。
十人十色の性格と、それを基礎作る悩みや不安。ジレンマが人の個性を個性たらしめます。
多くの問題を率直に描くことで、彼女たちを魅力的なキャラクターに描けていると思いました。
一人ひとりに違った魅力があり、意味があります。
それだけに最初っからヒロインが決まっているのにはやきもきしますね。(いやだからこそいいんだけど)
プチデビルの最後とその後の朋絵がもう、切なくて切なくて。
同じ立ち位置でも豊浜のどかはすきあらば姉から彼氏を奪っていきそうな感がすごいです。麻衣が言葉の端々で警戒しているのがわかる。
そして、おるすばん妹とゆめみる少女ですよ!!
やばい。あのキャラ付けはやばかった。ストライクゾーンに入りすぎ。
5,6の山場なので詳しく書くと流石に致命的なネタバレになるので自重します。
そしてこの個性的な人々を押しのけてヒロイントップに君臨する桜島麻衣。
彼女の弱さと強さはこの作品の完成度を一段と高みに押し上げています。




それにしてもキャラ付けとそれを伝えるエピソードがめちゃくちゃうまいですよねこの作者。
ここまで語るんだから当然親友の国見佑真やその彼女のこと、思春期症候群と主人公のことも含めたアレヤコレヤを存分に語りたいんですが、アレです。
まだまだなんかいろいろ伏線っぽいのが見え隠れしているので、そういうのは完結した時に機会があれば。
っていうかね、どれだけ語ろうとも魅力を十全に伝えられた気がしません。5千文字でも足りない。
これだから巻数の多い良作ラノベを紹介する記事は大変なんですよ。すべてのエピソード語ってたら夜が明ける。
つうコトで必殺の一言
もし気になりましたら、ぜひ読んでみてください。
以上
鴨志田一の「青春ブタ野郎シリーズ」
おすすめ

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