安土桃山時代、大坂城落城までを茶の湯と数奇に生きた男「古田織部」の、その壮絶なる数奇人生を描ききった傑作歴史ギャグ長編「へうげもの」。
- 作者: 山田芳裕
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/28
- メディア: Kindle版
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完結の報を聞いてから単行本を一気読みしたいなぁと常々を思っておりまして、此度全巻読み終わりまして。
いやぁ、25巻全273話という中で駆け抜ける戦国の世は非常に楽しかった。
「本格的歴史長編ギャグマンガ」とのことだが、ギャグかと思えば深く考えさせられる名シーンや心に響く名言もあり、安土桃山の歴史を見事に渡りきった傑作でした。
あらすじ
これは『出世』と『物』、2つの【欲】の間で日々葛藤と悶絶を繰り返す戦国武将【古田織部】の物語である
古田織部とは一体いかなる人物であったのか。
現代まで続く「織部焼」の創始者にして、戦国の世を数寄道で渡りきった異才の男。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という天下人たちに仕えた武士にして、茶聖・千利休に師事した茶人。
そして、茶の湯と物欲に魂を奪われた戦国きっての「へうげもの」。
これは、一介の武士から数奇の巨匠「天下の文化人」へと飛躍した織部の半生を追いながら、
戦国の世を「美」と「数奇」から描ききる本格的歴史長編ギャグマンガである。
「へうげもの」とは「ひょうきん者」または「ふざける人」という意味だそうで。
中盤に差し掛かったあたりで、この「へうげもの」の意味に古田織部が重なるところはかなり感慨深い。
戦国時代に生きる強烈な個性を持つキャラクターたちは非常に欲深く、人間臭く、そして何より格好良かったです。
数奇、数奇なぁ。
言ってみれば
しかし、
名シーンだらけの戦国絵巻
何よりもまず、勢いと画作りがすごい。
そしてそこに行くまでの”ため”もいい。
なんていうか・・・とにかくインパクトがすごい。
真っ二つに切られた信長が、次のシーンでは無理やり体をひっつけて茶を振る舞う。
この豪速球が最高。
で、それが単なるギャグにとどまらない。
そのシーンを読んでいる時は、そのすまじい勢いに押し流されるまま一気読みしてしまうんだけど、その一言一言が後で様々な重みとしてのしかかってくる。
で、さらに言えばそれに関わってくる人々の顔がね。
戦国時代には強烈な個性を持つ登場人物達が大量にいるんだけど、その一人ひとりが様々な状況に遭遇して、言葉にできない言葉を表情として浮かべるんですよ。
自分たちのエゴと”体面”を天秤にかけながらも、時には笑ったり渋い顔したり、ゲヒヒったりですね。
インパクト重視の変顔なのかと思いきや、その顔に刻まれる一つ一つの皺に壮大な裏が見えたりして。
様々に表情を変えながら歴史という物語を紡いでいくわけですよ。
これがまた( ・∀・)イイ!!
登場人物の濃さと各々の譲れない思いが交差して、一言では言い表せない景色がそこにあって。
一コマだけでもストーリーが見えるような気がして。
一回見たらもう、「これは最後まで読まないといけんな」と思わせるインパクト抜群の名場面だらけでした。
戦国ものとか武士ってかっこよくて強いのが王道じゃないですか。
信念や主君に殉じたり、命のやり取りの中で絆が結ばれ合ったり。
しかしへうげものはちょっと違う。
バカバカしくて最高にふざけてて、全然強そうじゃなくて、可笑しくて笑ってしまう。
そして、それがとても格好いい。
茶の湯って楽しそうやね
数奇に狂うってのがちょっと理解できる・・・・・・
ような気になってしまった(´・ω・`;)
特に、床の間に太刀を入れて光を通した場面は「おおっ」って声に出た。
何か読み進めるごとに、「たかだか器」って思ってたのが「されど器」って気持ちになっていくのが楽しい。
ついつい名物や織部焼が登場する度にググって写真を見てみたりして。
茶の湯、奥深い。
さらに言えば、やはり「茶の湯」つまり茶道の”あり方”がですねがですね。
とっつきづらい高尚な趣味に思える茶道ですが、根底にあるのは「相手を安らぐ気持ちにさせる、一座建立の儀」であり、必要なのは手順ではなく相手を慮る気持ち。
もてなしの心、一期一会の精神。
難しいものじゃなくて、思いやりなんですよ。と
丁寧に各人の「茶の湯とはなんぞや」が描かれていて、「ほう、これが数々の武将を狂わせた数奇というものか!」と。
なんか納得してしまう。
もちろんしっかりした歴史モノの楽しさも。
織部の半生ということで、信長から始まり、秀吉を経て、徳川による大坂の陣からの戦後処理まで、安土桃山時代の大イベントをまるごとガッツリ行きます。
で、そこに数奇や茶の湯によって彩られる様々な人間模様が、物欲まみれの古田織部と共に描かれる。
茶の湯ってただでさえ政治利用されていたのに、更に個室で、少人数で、しかも客の気を楽にさせて・・・と密談にはもってこいの場所ですから。
もう陰謀も政治劇も盛り沢山。
作者:山田芳裕氏による独自解釈満載の歴史ストーリーの中、古田織部の立身出世劇が描かれていきます。
信長の死の真相といった歴史ミステリーを含めて、面白く楽しくダイナミックに描きながら、きれいに筋が通ってまとまっているのが素晴らしい。
加えて言えば、キャラクターが全員濃いわ。濃すぎるわ。
日本史ものの中でも屈指の人気を誇る戦国時代を舞台にしてるんで、そりゃ飛び抜けた主役級登場人物がこれでもかとでてきます。
そいつらがもう、ホント濃い。
特に千利休。
こいつの魔王感がやばい。
間違いなく「へうげもの」前半の裏主人公。
主人公古田織部の師匠に当たるわけですけど、欲にまみれ、業の火に焼かれ、それでも自らの意志に気高さがあり。
登場時の強キャラ感をそのままに、多くの苦悩や後悔に苛まれながらも成長し、己の数奇を貫こうとする様が素晴らしい。
明智殿の最期を知った瞬間の千利休の絶望はホント輝いてました。
散り際がまたかっこいいんだわ。
歴史上決まっているとは言え、前半で退場するにはもったいないキャラだった。
織田信長も、豊臣秀吉も、徳川家康も一人一人人間臭く、様々なドラマを抱いていた。
信長と秀吉の死に際。
そして最終巻の家康のあれな!
天下人の苦悩。武将として如何に生きるか。
種々雑多な登場人物が驚くほどの”濃さ”とともに、数奇の文化の中で笑いあり涙ありのドラマを築き上げてました。
総括
「きみは”物”のために死ねるか」とは第一巻第一話のタイトルであり、数奇ものとしての語りかけでもある。
その中で「乙武将」として、独特の感性で天下を渡り歩く織部は魅力あふれる強烈なキャラクターだった。
へうげものを読む前は全く知りもしなかった戦国武将「古田織部」が、もはや「あの顔」と「あの性格」で植え付けられてしまった感がある(*´∀`*)
出てくるキャラ一人一人が信念や忠義に揺れうごく様は、どこをとっても見ごたえあり。
そして、あの終わり方な。
古田織部は最期に切腹することが歴史上決まっている。
そして「きみは”物”のために死ねるか」という問いかけでこの作品は始まっている。
武将としてではなく数奇者として、信義や名誉ではなく物のために死ねるのか。
さて、おわりをどうするのかと思いきや、いやぁ、これこそ「乙」ですわ。
乙武将は、この回答でいいんですよ!
”戦国モノ”を合戦などの”武”ではなく、茶の湯や数奇といった”美”と”文化”の側から描いた傑作歴史漫画。
ネットでたまに画像だけ流れて、そのインパクトあるキャラクターたちに興味を惹かれた人も多かったはず。
安土桃山の文化、茶道の世界という一見格調高そうなテーマをここまで面白おかしく、そして何より格好良く描ききったのは、もはや天才の所業。
すげぇよ山田先生。
歴史の新解釈、物語としての面白さ、記憶に残る名シーン。
虚実を織り交ぜながらもダイナミックに描かれた戦国絵巻は、「戦国モノ」の楽しさが非常にわかりやすく、大量に登場する様々な偉人たち一人一人に輝きをくれました。
まぁとりあえず総括としては
山田芳裕「へうげもの」。
- 作者: 山田芳裕
- 出版社/メーカー: 講談社
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- メディア: Kindle版
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