まぁ、ラブコメ合戦というわけではないのですが。
ヤンジャンの「かぐや様は告らせたい」
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ジャンプの「ぼくたちは勉強ができない」
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とか、ジャンプ系列のラブコメにワクテカしてたわけですが、ふと気がつくとマガジンがラブコメまみれですね。
- レンタル彼女をモチーフにした「彼女、お借りします」
- 5つ子を主題にした「五等分の花嫁」
=>感想書いた
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- 対立する学校を挟んだ許されざる恋を描く「寄宿舎学校のジュリエット」
とかいろいろ
で、今回の本題もマガジンのラブコメ。
自分をすきになれない少年が、嘘を共有し二人になり、やがて仲間が増え、そして自分を好きになる青春ラブコメ
永椎晃平「星野、目をつぶって」

- 作者: 永椎晃平
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/07/15
- メディア: Kindle版
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6巻で伏線回収が、8巻で関係性が一段落したので感想
注:この記事は「星野、目をつぶって 」の致命的でないいろいろなネタバレを含みます
あらすじ
それでもやっぱり
お前みたいにはなれないこんな俺だけど
こんなことでしか、力になれないこんな俺だけど
いまだけは
ーーーー星野、目をつぶって
小早川はクラスの日陰者である。
ぎゃあぎゃあと楽しそうに騒ぐ連中を馬鹿じゃないかと軽蔑しながらも、意味のない苛立ちに胸を焦がす。
休み時間でも寝ているふりを続けて、クラスの奴らは彼の名前さえ覚えていない。そんな毎日。
そんなある日、小早川はクラスの人気者・星野海咲の誰も知らない素顔を知ってしまう。
その日から、小早川の日陰の毎日は波乱へと転機した。
秘密を知ったことで星野に協力することとなった彼は、彼女に引っ張られるまま様々な問題にぶち当たり、勇気を絞り出して解決していくこととなる。
後悔も、懺悔も、失敗も、何もかもが怖くて怖くて仕方がなくて。
それでも、きっと誰もが何かを求めていた。
思い出しただけでも身震いするような、あのどうしようもなかった狂おしいまでの青春時代の中で。
少年はもう一度顔を上げてみることにした。
秘密を抱えた少女と、かつて失敗し続けた少年が出会ったことで始まる。
きっとこれは、日常革命系ボーイ・ミーツ・ガール!!
「ボクはボクが好きになれない」
だから目をつぶってほしいんですよ。
歪んで、汚くて、自信がなくて。
自分のことをダメだって知っているから。
人と一緒にいると辛いから。
誰かに求められるとしんどいから。
比較されて落ち込むから。
何気ない一言に傷つくから。
だから、光の中に行くのは嫌なんです。
期待されるのは重いんです。
でも、憧れるんですよ。
友達と笑い合う日々とか、アホみたいにはしゃげる文化祭とか修学旅行とか。
お昼休みに友達とゲラゲラ笑うような。
朝起きて、学校行くのが楽しみになるような毎日とか。
そういう、あり得ない日々がね。
だから目をつぶって。
そしたら勇気が出るかもしれない。
君に何かを伝えられるかもしれない。
僕も何かがしたいんです。
誰かに喜んでほしいんです。
失敗を、裏切りを、不実を、歪みを考えずに、ただ一歩前に歩き出したいんです。
だから、目をつぶって。
そしたら、一歩進めるかもしれないから。
主人公、そして登場するあらゆるキャラクターが。
青春時代の歪みを、自信のなさを、根拠のない理想を、絶え間ない後悔を胸に生きていて。
それが、全く合理的じゃなくて、辛い失敗につながるわけだけど。
でもだからこそ、そんな中できらめくような日々も合って。
ああ、いいなと。
主人公には一欠片の勇気が残っていて、そして星野に引っ張られながら不格好なりに光の下に一歩踏み出す。
そんなお話でした。
ラブコメよりも先に、悩み多き人生に苦悩する人たちに。
人として、何をまず一番大切にしていくべきか
そんなことが訴えかけられているような気がします。
アノ時代は本当に理想と現実のギャップや自己嫌悪にさいなまれるなぁ。
過去にもマツリカシリーズとか紹介しましたね
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仲間が増えていく問題解決型ラブコメ
いじめや、空気を読むことの犠牲者、周りのエゴに振り回される子供。
些細な悪意、善意のすれ違い。
そんないろんな学校で起きる問題を、ちょっとの勇気で解決し、仲間を増やして青春を謳歌する。
王道の問題解決型ラブコメです。
初恋ゾンビ。。。
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とはちょい違うか。
(主人公の歪み具合も含めて)「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」に近いが、あそこまで歪んでない。

- 作者: 渡航
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/11/02
- メディア: Kindle版
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若者が集う学校というのは、とかく歪みのるつぼです。
ギャルも、DQNも、不良も、優等生も、オタクも、リア充も。
みんなみんな、悩んでます。
星野海咲は、まぁバカなところがありまして。
後先考えず、いわば諸悪の根源たる「空気」を読まずに、感覚で一直線に正しいことをしてしまうような人間で。
そこが全てを台無しにする危ういところではあるんですが、走り出す彼女を放っておけずに小早川は何度も勇気を振り絞ってついていかなくてはなりません。
理不尽なこと、納得出来ないこと、ささいな悪意の暴走。
いろんな厄介事へドロップキックで飛び込む彼女に、なんとかフォローしようと頑張っているうちに小早川の周りに徐々に人の輪ができていく。
嘗て親友を見捨てていじめの犠牲を見て見ぬふりし延々と自己嫌悪に苛まれ、歩き方を忘れた小早川。
今でも鬱々とし続ける彼が、無茶苦茶で猪突猛進な彼女をアシストするために、一歩づつ歩き方を思い出す。
そういう話です。
メイクすれば安心して帰れる場所があるから、あたしは思いっきり走れるんだよ
とのことで、星野も自分を偽っています。
そこで安心先として出てくるのがメイクであり、主人公がいつでもメイクを直してくれるから空気を読まずに正しいことへ走れるわけです。
その関係性が、周りの理不尽をぶち壊しながら、ちょっとづつ小早川の心に革命をもたらしていく。
そして、寝たふりで顔を挙げれなかった彼の周りにちょっとづつ友だちを増やしていく。
っていうストーリー。
誰も彼もが悩みの中にいる。それでも動かない奴らは何も言う資格はない。
このラブコメ、何がいいって「全員が悩んでいて、全員に理由がある」ってことなんですよね。
片側をヨイショし続けないというか。
この小早川の青春を彩るのは「善でも悪でもないキャラクター」たちです。
人によっては嫌いかもしれない。
特に「登場人物が正義でも悪でもない多面性を持つ」っていうことが耐えられない人。
例えば、いじめる側は絶対に悪いとしながらも、彼らの立場もある程度描写します。
もちろんいじめを受けた側を馬鹿にしたりは絶対にしないですし、双方どちらかを揶揄することも無い。
でも、立ち向かうのは「問題」であって、「こいつを悪人にすれば全て解決」という手法は殆ど取りません。
いや、ある意味で悪人である側がいます。
この作品。
何もしないで大勢側に迎合する人。周りで手を差し伸べずに好き勝手口にする人。
自分勝手に多数を持って正義を気取る人。自体に対し見て見ぬ振りをする人。
何にもしてないのに頑張っている人間を馬鹿にする人、自分は関係ないと逃げることを正当化して喚く人。
そういう、保身に走った人や”何もしない”を選んだ人にはかなり手厳しい。
問題を認識しながら放り捨てる人が、一番の問題であるというスタンスですね。
何も出来ないんじゃなくて、何もしない。
この作品の大きな象徴、というか起点となるシーンがあります。
3巻と6巻がそれだと思っています。
なんと、1,2巻でヒロインの一人である松方さんを陰湿にいじめていた「いじめっ子」が、ヒロイン参戦する。
・・・・・いや、なんていうか、勇気ある決断だったと思います。
ただでさえ昨今安易で平易な”正義”が持て囃される時に、このくっそ面倒くさいヘイト管理を行う決断に。
それがすごくこの作品を象徴していると思いました。
そして、その後の顛末。ヒロインとして力を溜めていく数々のシナリオ
とても見ごたえがありました。
とにかく8巻まで読んでみろよ!!
お前絶対このいじめっ子こと、加納ちゃんのこと応援してるから。
一途なんだよ!真摯なんだよ!いい子なんだよ!
でも、どうしていいかわからなくて、集団に迎合しちゃったんだよ。
苦しくて、つうか主人公のせいで、あんな手段しかとれなかったんだよ!!!
取った手段は最低なものだったけど、彼女なりの藻掻きがあって、言い分があって、歪みがあって。
誰しもが救われたい
誰しもが、やり直したい
誰しもが、後悔を胸に生きてんだよ。
そのやり直しに、その努力に、何もしてないやつが「でもあいつは一回失敗したんだし」とか言うのが、それこそ悪でしょうね。
そして、6巻ではいじめの原因となった出来事が登場。
なんというか、まぁ最初っから松方さん違和感バリバリでしたし。
いや、驚きはしなかった。どう考えても裏があるキャラだったし。
でも、これで見方をかえるのはそれこそ最低ですよね。
そして、だからこそ松方さんは6巻以降のほうが好き
裏のあるキャラは裏を出してからが本番。
っていうか、意図的だと思いますが、4巻ぐらいまで松方さん表面上はつまんないヒロインだったもん。
良い子ちゃんというか、前時代的な大人しめ文学少女というか。
魅力が表現されていなくて、ただただ「なんかあるよーーー」的仄めかしばっかりだったし。
わたし、こういうキャラ好きです。
胸に様々な鬱屈を抱え、自分勝手に生きたいけれど人とともに生きないといけないギャップと理不尽にまみれ。
傷つくことから逃げてきたのに、逃げてきたせいで肝心なところでそれにしっぺ返しをくらい。
今後も頑張って頂きたい。
西村ァああああああ!!!
取るに足らない戯言だと思ってくれていい。
僕は・・君が羨ましい
西村。お前・・・
お前なぁ。
わかる。わかるよ西村(´;ω;`)
8巻で、ようやく、ようやく満たされたよ。
お前は俺だよ西村。
なにやってもうまくいかないとか言いながら、最終的には救われた側の人間である主人公:小早川。
それに対して、何もしてないからこそ何もできなかった。
なにもしないからこそ、何も得られない。
でも、それでも彼に嫉妬しまう西村。
最低だということはわかっても、彼は小早川を羨まずにはいられない。
それでも、この大事なシーンで主人公を諭したのが彼で本当によかった。
8巻のターニングポイント。
全てを放り捨てることで自裁して楽になろうとする主人公の前に現れたのは、喧嘩別れした西村だった。
ありがとう。
ここで西村を持ってきてくれて。
この役目を西村に与えてくれて。
それだけでもう救われる。
たとえどんな偉い人間だって
人から渡された思いを放り投げていいわけないんだ!!!
文化祭で、楽な方に楽な方に逃げて勇気も潰え、それでも最後の約束だけは握りしめて離さなかったからこその叫びだと思います。
傍観者を気取りながら、痛みを感じないように、斜に構えることがカッコイイと。
どうせ自分は・・・と勇気がないことを自己正当化して。
そんな底辺の二人から小早川だけ一歩外に出て成功し、西村はまだ闇の中。
でも、だからこそ!
そんな仲違いした二人だからこそ。
西村の叫びが、遠慮のない愚痴が、それでも嘗ての友人を諌める思いの猛りが!!!
そして、その一言が主人公にすべてを決めさせた。
まさしく、この「星野、目をつぶって」の縁の下の力持ち。
っていうかこんなこと言わなくても決まってんだろ!!
わかるよ。
君はいつも彼女のことを目で追っているから。
最後に主人公の背中を押したのがなぁ。誰でもない西村なんだよ。
星野に導かれて増えた多くの友達じゃなくて、自分が勇気を出して勝ち取ってきた信頼じゃなくて。
光の中を歩んでいく小早川を妬んで妬んで妬みまくって。
自分は何も出来ずに、たった一人で取り残された彼が。
それでも、小早川を!そのどうしようもないうじうじする背中を!
彼の背中を押すのは西村じゃないとだめなんだよ。
底辺から這い上がれなかったもう一人の主人公だからこそ!
西村、いいキャラだよ(´;ω;`)
本当に彼には幸せになって欲しい。
そしてそれは、「彼自身の手で這い上がって」ほしい。
総括
まず第一に非常にテンポが良い作品です。
無駄に引き伸ばさず、8巻で一旦の決着をつけ第二部に持ってきたところも踏まえ、素晴らしいと思います。
善と悪を安易に決めず、様々な解決方法の無い悩みを勇気の欠片を持って
非常に主題というか主張がハッキリした作品で、そこが好きな人は好きでしょう。
逆に「わかりやすくぬるま湯で幸福感に満ちたラブコメ」を求める人は、苦手な人も出てくるかとは思います。
ヒロインも、サブキャラも、敵役も味方もみんな様々な顔を持っていて。
複雑に絡む人間関係が、3年間という僅かな学生時代を強烈に彩ります。
悩みながら、苦しみながら。
それでも一歩踏み出さないといけない。
変わっていくこと、傷つくことを覚悟しないと欲しいものが手に入らない。
だからこそ、ちょっとでも、ひとかけらでもいいから勇気がほしい。
自分の内面と理想のギャップに自己嫌悪で苦しみながら、社会性の辛さに戸惑いながら。
それでも、踏み出した一歩を引かずにふんばろうとする小早川くんたちの物語。
永椎晃平「星野、目をつぶって」おすすめです。

- 作者: 永椎晃平
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/07/15
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あと、西村。
頼むから幸せになってくれ(´;ω;`)
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