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おすすめコミック:二転三転する怒涛のストーリーが面白い。原作:城平京、構成:左有秀、作画:彩崎廉 「絶園のテンペスト」。紹介感想

前回と前々回話したように、一風変わったミステリ原作が得意な城平京先生。

  • 前回「虚構をもって真実を打ち倒す探偵もの」(コミック)

城平京×片瀬茶柴のミステリコミック「虚構推理」が面白かった。虚構の真実に嘘で挑む、良作”言葉遊び”ミステリー。【おすすめコミック紹介】 - citrussinのチラシの裏

  • 前々回「”名探偵”は名探偵にしかなれないという悲壮な事実を突きつけるミステリもの」(小説)

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で、そんな城平京の「どうしようもないことはどうしようもなかったミステリ」というファンタジーミステリ
原作:城平京、構成:左有秀、作画:彩崎廉 「絶園のテンペスト」

絶園のテンペスト 1 (ガンガンコミックス)

絶園のテンペスト 1 (ガンガンコミックス)

1つの小さな謎が、いつしか全ての根幹につながる大きな謎になる思考実験ミステリです。
感想




あらすじ

世の中の間接は外れてしまった。
ああ、なんと呪われた因果か、それを直すために生まれついたとは!

シェイクスピア著「ハムレット」

昨年11月23日午後10時から午前0時。
不破家に強盗が押し入り不破夫妻と長女:不破愛花が殺害された。
その事件で、最愛の妹を失った少年と最愛の恋人を失った少年がいた。
愛花の兄「不破 真広」、その親友「滝川 吉野」。
1年たっても警察の捜査に進展は見られない。
そして、マヒロは必ず犯人を見つけ出すと誓い失踪した。


所は変わり。
ーーさて、「魔法使い」は実在する。
この世の全ての因果”理”を統べる「はじまりの樹」。
嘗て破壊の力を持つ「絶園の樹」と戦い重症を負いながらも絶園を封印した偉大なる樹木。
そして「はじまりの樹」を崇める魔法使い「鎖部一族」
しかし現在、鎖部一族は「はじまりの樹」こそが人類を滅ぼす可能性に気づき、「絶園の樹」を復活させるために動き出していた。
だが、鎖部一族にははじまりの樹を守る”姫”がいた。
鎖部一族の長。一族の人間が束になってもかなわない強大な力を与えられた大魔法使い。
「はじまりの樹の魔法使い」とよばれる少女:「鎖部 葉風」。
葉風は安易な”絶園の復活”という手段に猛反対したが、一族の奸計により魔法が使えない無人島に置き去りにされてしまった。
ーーーーだが「この世の全ての因果を統べる樹」の加護を受ける彼女は、「何をやっても”偶然”望んだ結果を手に入れる」。
偶然、とある妹を殺された兄が、偶然無人島に置き去りにされた葉風とコンタクトを果たす。
そして契約はなされた。
【不破愛花を殺した犯人を魔法で見つける。代わりに、葉風を助け出し鎖部一族を止める】


ある日、蝶が舞い人が金属に変わり、地獄と化した街で。
滝川吉野は魔法を操る親友と再開し、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれることとなる。


敵と味方が入り乱れ入れ替わるサスペンス

基本的に敵と味方がコロコロ入れ替わります。
というか、途中から全員味方で全員敵です。
なぜならば、一切の確証なく「はじまりの樹」も「絶園の樹」も等しく人類を滅ぼす可能性があります。
加えて、「はじまりの樹」はこの世の理を操れるため、不自然なまでにはじまりの樹とその魔法使い(葉風)に都合のいい偶然が起こります。
さらに途中から絶園の樹の魔法使い:羽村めぐむが登場し、自体が更にややこしくなっていきます。
めぐむくんがいい人ってのもね、かなり困ったこと。


故に「これははじまりの樹や絶園の樹が魔法使いを媒介に誘導した”真実”なんじゃないか?」と悩み続けることになります。
さて、何が正しいのか何が間違っているのか。
そもそも間違いや正しさなんてどこかにあるのか?
登場人物は「誰かが悪意を持ってこの状況を創り出した」事を疑いつつも、最悪の中の最良を引き当てようと延々と思考実験を繰り返すことになります。



あ・・・・っていうか。
ヴァンパイア十字界だこれ
あれも「絶望的な状況下で思考実験をして正解をさがす」物語でしたね。
あれの結末を考えるとね、っていうかハムレットとテンペストをやたらと引用しているしね。
もうね。

ヴァンパイア十字界 1 (ガンガンコミックス)

ヴァンパイア十字界 1 (ガンガンコミックス)




目まぐるしく変わる本題とテーマ。一切見えない「正解」

さらにこのストーリー「解決すべき」問題もコロコロ変わります。
最終的には「果たして”解決すべき”なんてものがあるのか?」って気持ちにさせられるぐらい


まず妹を殺した犯人を追い始め、そのために葉風を無人島からこっちに返す方法を探し、果たして「葉風」は戻れるのか?という疑念に発展します。
さらに「殺人犯ははじまりの樹を信奉する鎖部である」という解答から、「鎖部一族には殺人が不可能であった」という反証が出てきて、「そもそも何のために愛花は殺されたのか」を考えたときに「全ては葉風と二人を出会わせるためにはじまりの樹が仕組んだことなのでは?」という疑問が生まれ、では少年たちが復讐すべきなのは「はじまりの樹」なのでは?という疑念に発展します。
さらにさらにそうなると、「どうやって絶園の樹を止めるか」を考えていたのに、「はじまりの樹は守るべきなのか?」という根本が揺らぎ始める。


矢継ぎ早に正義と悪が混ざり合い、「正しい道」なんてものは何処にもないことに気付かされていく。
「悪を倒して終わり」なんてそんな生易しいものは存在せず、「多少マシ」を選ぶしか無い状況に陥る。
誰も彼もが藻掻き苦しみながら、自分の信じる「多少マシ」のために、ある時は好き勝手に独断専行し、ある時は協力して一致団結する。


手繰り寄せたものは真実なのか、思考実験の末にたどり着いたものは本当に仕組まれたものではないのか。
そして「この物語は果たして収拾がつくのか」
まさに謎が謎を呼び続け、息をつく暇もなく二転三転しつづける。
でも根幹は一切変わらない。
この筋が通らないようで、実は徹底してロジカルに一貫しているストーリーがとても楽しかったです。


終わってしまっている物語を終わらせるミステリー

これほどまでに様々に移り変わるテーマが、揺れ動く「目指すべき物語」の結末が。
しかし、クライマックスのwhodunit(誰が彼女を殺したか)から急展開する36話、37話のタイトルを持って簡潔なまでに帰着する。


36話「whydunit」(動機)
37話「howdunit」(犯行方法)


読者も登場人物も人類の存亡と「はじまりの樹のロジック」について追い続けていたのに。
それが転がり落ちるように「誰がなぜ彼女を殺したのか」に行き着くさまは本当に見事。
あらゆるものが、この物語の全てが「誰がなぜどうやって不破愛花をころしたのか」にたどり着く。
そしてそれはすでに全て提示されており、その解答によって「はじまりの樹と絶園の樹をどうすべきなのか」がわかる。
本当に美しいミステリだった。

流石にミステリが本題でないだけあって、なんとか解答前に解けました。
いや、というかヒントはかなり提示してもらっているので、「ここまでいくと、これしかないかなぁ・・・」ってなりました。
でもね、そこが主題じゃないというか、謎解き物語じゃないというか。


ココまで振り回されながら、ココまで話が大きくなりながら
解決すべきはたった1つの強盗事件ってのがね。
美しいとしか言いようがない。
そして、これは終わってしまった事件なんですよ。

今からでは一切の取り返しがつかず、犯人が見つかったからと言って愛花が生き返るわけじゃない。

真広は「それでも見つからないままじゃ理屈に合わねぇ」と言っていますが、知ってどうすることも出来ない問題なんです。
それがこの「世界がどうなるか」という大規模かつ緊張感あふれる事態の根幹を握る。
でもなぁそういうもんですよね、ミステリって。
探偵は人を生き返らせることなんて出来ないんですよ。
犯罪があって、それを詳らかにして、それで納得して、でもそれがどうなるわけでもない。
覆水は盆に返らないし、こぼしたミルクは戻らないわけです。
城平さんはこの話を

どうしようもないことをどうにかしようとしたけれど、やっぱりどうしようもなかった話
あるいは
あらゆる努力が裏目に出てしまったけど、やっぱり明日も努力を続けざるを得ないって話

9巻あとがきより抜粋

と語っていますがそのとおりだと思います。

そして、やはりだからこそ。
これは、本当に、美しいまでに、「ミステリ」だなぁっと。

総括

魔法と、悲劇と、喜劇と、終わってしまった事件の上で織りなされる後日談。
「どうなるんだろう」というワクワクでいっぱいのロジックミステリです。
目まぐるしく変わる情勢、今までの真実を荼毘に付す新たな真実、そして全てがバタバタバタと倒れ収束する解決編。
一気に全巻読破してしまいました。

焦燥にかられる8巻までのハラハラドキドキと、8巻9巻での伏線回収からの怒涛の決着。
加えて10巻でアフターストーリーを用意し、各それぞれの気持ちに決着をつけてくれるのも嬉しかったです。
原作:城平京、構成:左有秀、作画:彩崎廉 「絶園のテンペスト」

絶園のテンペスト 1 (ガンガンコミックス)

絶園のテンペスト 1 (ガンガンコミックス)

おすすめです。

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