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ゲームや読書感想、日々のことを適当につづる日記。TwitterID @sinensis197

古典部&氷菓ファンは絶対読むべき結末がここに。米澤穂信古典部シリーズ最新作短編集「今更翼といわれても」読書感想。

いや、すごかった。
いつもながらの古典部節、ウェットの効いたストーリーテラー、そして日常の謎を解く楽しさに溢れた一作。
しかし、そんなことはある意味端における
この本には「古典部の面々のお話の結末」が描かれる短編が入っている。


古典部シリーズは、所謂”キャラもの”として読んだ場合、1-3巻までで個別のキャラの問題を提示しそれを放り投げたままにした作品だった。
1巻氷菓では千反田の、旧家の問題と彼女の抱える重いバックボーンが基点となっているが、彼女自身の問題は解決されていない。アイスクリームを理解した後の彼女の涙の理由は語られていない。
2巻愚者のエンドロールでは奉太郎の、「信条をよそに避けて頑張ったからこその裏切り」が描かれ、姉が激怒しながらも奉太郎自身は救われない状態で終わった。愚者とはすなわち奉太郎のことだ。
3巻クドリャフカの順番では、主人公を友人に持ってしまった凡人福部里志の苦悩と、真っ二つに別れ夢と情の間で揺れる摩耶花が描かれている。ふたりとも挫折で終わり、そこに救いは合っても解決はない。

その後、4巻のチョコレート事件、5巻の遠まわりする雛を経て、凡人福部里志の苦悩は1つの昇華を見せる。
その結末として”摩耶花”という恋人が救いとなり、彼は彼自身を許せるようになった。
と私は捉えている。
しかし、まだあと3人は結末がなく宙ぶらりんで来ているわけで。
その物語たちの結末が描かれるストーリーとなっていた。

全古典部ファン必携。
アニメ「氷菓」で入ってきた人も、絶対読んでほしい傑作。
ただし、これまでの古典部シリーズ作品は事前に絶対読んでおくこと

いまさら翼といわれても【電子特典付き】 「古典部」シリーズ (角川書店単行本)

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注:注:この記事は「今更翼といわれても」 」の結構いろいろなネタバレが含まれています




「箱の中の欠落」

ある日奉太郎は里志から夜の散歩に誘われる。
夜長二人で散歩をしながら、ポツポツと”困りごとの相談”をうけるのだが。
男二人の友情が描かれながら、生徒会選挙時の起こったある事件の謎を解く物語。

選挙の謎事態は、いつもの古典部短編。
出だしから巧妙に張られた伏線があいかわらず上手すぎる。
しかし、話のメインは福部里志の形をきめるとても大事なストーリー。
「福部里志の相談なら受けるが、選挙管理委員会の相談なら放っておく」
折木奉太郎のツンデレが男らしい。

福部里志というキャラは中々難しいキャラクターで、等身大の凡人として設定されているところがある。
そんな凡人が折木奉太郎というある種の天才と出会い、友人となったことで、自身の立ち位置や存在についてもがき苦しむ姿は今まで何度も見てきた。
とくに十文字事件で受けた福部里志の絶望は凄まじいものだっただろう。
様々な思春期の悩みを、奉太郎の代わりに背負わされたような存在で。
だからこそこのある種イビツで何処まで言っても映しい二人の友情関係がいいんですな。

里志自身の問題は「摩耶花」と向き合うことによってすでに結末を迎えたけど、この「絶対に勝てない親友との友情」を、夜の散歩で確かめ合うストーリーは、福部里志のキャラを一層輝かせたと感じた。
いや、ほんとに男同士の友情がかっこいい。
そしてこのかっこよさは、次の「鏡には映らない」にも影響する。

「鏡には映らない」

鏑矢中学の折木奉太郎の同級生は、多くが折木奉太郎を嫌っている。
それは、彼が卒業制作を手抜きしたからだ。
しかし、摩耶花は今になって思う。折木はそんなやつじゃない
他人に迷惑をかけるようなめんどくさがりではないのだ。


中学時代の卒業記念にまつわる、影で動いたヒーローたちの物語。
最後に目を細める里志と、顔を真っ赤にしてそっぽむく折木のなんとかっこいいことか。
箱の中の欠落から続けて読むことで、このコンビの魅力が最大限に伝わってくる。
ミステリとしては正直アンフェア。鏡に映らなくても問題となった卒業記念の挿絵が無いと解けない。
だからこそ、これはミステリというよりは「古典部」なジャンル。
日常の謎をマクガフィンにしつつ、中学時代の二人や彼らをよく知る摩耶花の関係性がよく描かれている。
「だとしたら、折木に謝らないといけない」
と断言した摩耶花。いいキャラだわ。ほんと。

あと、色々と折木奉太郎という主人公が目立ちますが、福部里志というトリックスターが中々に素晴らしい。
すべてを知っていて恋人にさりげない助言を与えたり。
あと、卒業記念にラベルはった件な。
里志の底意地の悪い頭の良さがでてて、里志ファン絶頂。


「連邦は晴れているか」

あの日、空を飛ぶヘリをみて「ヘリが好きなんだ」とかたった小木先生。
彼は、本当は何を見たのだろうか。


雑誌掲載短編から中々単行本入りせず、アニメ氷菓18話で先に出てしまっていた作品。
アニメもよかった。
ただ、アニメは折木奉太郎の心情表現を重視していて、顛末はどちらかというと原作のほうが情報が多くてわかりやすいかもしれない。

メインテーマは「折木奉太郎という少年」について描かれる話。
「もし知らないままヘリが好きなんだっていうのは、無神経すぎるだろ」
という言葉に彼の人の良さが現れている。
この話をもって、長い休日で彼が歪んだ理由に出逢うことで、この歪な折木奉太郎という少年がわかる構図になっている。
奉太郎かわいいよ奉太郎。


あと、折木と千反田の関係性がすごく愛おしい話でもあるのよね。
氷菓=>愚者=>初詣=>生き雛ときて、二人の関係性が変わっていった古典部。
それが、ここで「あれ?これえるちゃん、奉太郎のこと尊敬から恋心になってない????」って来ちゃうヲタのSAGAが。
ゲスい勘ぐりですかね?
無粋なことは確かです。

で、この連峰=>長い休日=>いまさら翼といわれてもで、二人の関係性がより深度を増していくのです。
そう考えるとこの短編は「折木奉太郎と千反田えるの恋物語」と言えるのでは????
カプ厨としては妄想できて嬉しいです。


あと、前回書いたけど
=>前回
www.citrussin.com
折木の回答にたいして、「折木さん。それって、とっても・・・・・」と言いかける千反田えるが、私のベスト萌え千反田
アニメでも可愛かった。
小説でもかわいい。

「私達の伝説の一冊」

取り返しのつかない所まで来た「漫研の対立問題」
そんななか、漫研内で孤高を貫いてきた摩耶花は様々なシガラミに振り回され決断を迫られることとなる。


摩耶花の長い物語を締める傑作短編。
3巻で(いやさ1巻ですでに)噴出した問題に対して彼女の決断の一歩を締める作品。
絶対に、3巻は読んで置かなければならない。
漫研の諍い、漫画家へのあこがれ、ボディートーク、夕べには骸に。
3巻で置かれた様々な布石が見事に回収される。

私は二年も無駄にした。という悲痛な一言にはしびれたねー。
ボディートークという「摩耶花の宝物」がこんな形で彼女に返ってくるとは。
次々と出てくる「漫研問題」が見事な迷彩となり、最後にストーリーの形が現れて摩耶花が決断し「私達の伝説の一冊」の意味がわかったときはなるほど!と手を叩いてしまった。
本当に美しい脚本構成。
3巻から続いた摩耶花の物語が見事に昇華された一幕でした。


ちなみに、実は摩耶花問題はいつも重いので、私は連邦は晴れているかを読んだ後「今更翼と言われても」を積んでいた。
いやほんと、いつまでたってもこの漫研問題解決してくれないんだもの。
読んでいて辛い。
なんで、先に読んだ「虎、蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」でメロスがない(´;ω;`)と思いました。
=>前回「米澤穂信と古典部」感想
www.citrussin.com
いやぁ、こっちのエピソードを先に読まないといけなかったとは。
しまったしまった。
メロスの解釈もとても楽しかった。さすが折木くん。


「長い休日」

千反田が聞いた奉太郎の述懐。
それは「なぜ奉太郎は省エネ主義になったのか」であった。

省エネ主義の終わりを描く、折木奉太郎の結末。
不器用で、優しく、困った人間を放っておけないお人好し。
奉太郎とは根底からしてそういう人間だ。
千反田から言わせると「自分のことは無頓着なのに、他人の困り事にはちゃんと寄り添う人。」
そんな彼を歪ませたのは、人のささいな悪意だった。

この話でようやく分かる。
「何故奉太郎の姉はあそこまで入須に苛烈なしっぺ返しをしたのか」
それは彼女が、奉太郎が歪んだ理由であるあの先生と同じことをしたからだ。
彼の不器用でお人好しなところにつけこんで「いいように利用したから」だ。
偶然とは言え、入須は全く同じことをしている。
当時は「なんか大げさじゃね?」と思っていた表現が、実はとてもとても重いものだったことに気が付かされて、ゴロッと「古典部シリーズ世界」が音を建てて崩れた気がするわ。


長い長い休日は、本来ならば千反田に出会ったあの時に終わるはずだったです。
ヒロインの登場で、主人公は本来ならば目覚めていたはずだった。
それが自らが愚者であったことを知った『万人の死角』事件で、彼はまた休日を延長しなければならなかった。
なるほど。
姉の怒りについての理解はたしかに不十分だった。この作品を読むことで愚者のエンドロールにより深みが増した。
全てはつながっていたのである。
そして、だからこそ「異様なまでに」奉太郎は落ち込んだし、「奇妙なまでに」姉は入須先輩を弾劾したのだ。


そう考えると、この短編の1ページ目のなんと素晴らしいことか。
目覚めた朝が、休日が終わり開けた世界が。
全てが予定調和の中に収まっている。

ほんとうに見事。
折木ファン待望の一作だったといえる。


あと、十文字さんのラフな格好な!!!

はよはよアニメ化はよ。たのんますよ。

「いまさら翼といわれても」

千反田えるの”icecream”といえる短編。
ココまでで、福部里志、伊原摩耶花、折木奉太郎と古典部メンバーの一人づつの問題の、その一端の着地点が描かれてきた本作。
最後はこの本自体のタイトルにもなっている短編「いまさら翼といわれても」。
そして、千反田えるの苦しみが描かれる物語。
タイトルがかなり秀逸。
文中にタイトルコールされた瞬間のゾクゾク感はいいもんですなー。


夏休みに市が開催した合唱祭の本番の日、とある合唱団のソロパートを任されていた千反田えるが行方不明になってしまった。
様々な人の言葉や眼の前の事実、そして夏休み前のえるの様子。
数々の情報から折木奉太郎は一つの嘘と、1つの推測を導き出して、ひとりで”えるの居場所”へと向かう。


折木くんが主人公しすぎぃィィイ。
雨の帳によって孤立した空間で、扉合わせに語り合う二人のシーンがとても印象的。
アニメにしてもめっちゃ映えると思うんで、そろそろ二期やりませんか??
原作信者だけど、アニメも原作愛に溢れててとてもいい作品だったし。絶対納得行く出来になると期待しちゃんですよね。
ついでにラブコメ厨視線から言わせてもらうと、これまでの道程(特に、氷菓、初詣、生き雛、連峰)で培ってきた二人の物語のクライマックスとなる話。
そして、
いいところで終わりすぎぃィィィィイ
ここで、to be continuedとか!!????
米澤さんドSすぎでしょ。


そうねー。
まぁ、正直ソロパートの歌詞を見たときからちょっと想定はしていました。
なんせタイトルが「いまさら翼といわれても」。
えるちゃんの苦悩が、悲痛な叫びが聞こえてきてすごく辛かった。
それでいて、コレはある意味おじさんのアイスクリームの対称でもあるんですよね。
縛られ続け、「叫びたい時に叫べないほうが辛い」とえるに語った関谷純。
幼いころのえるが泣き出してしまった程の辛い辛い独白を、こんどはえるが行うわけですよ。
誰にも知られず、何事もなかったかのように合唱団と合流しようとしていたえるに、奉太郎という救いが迎えに来てしまった
最後の一文に込められたリドル・ストーリーが、読者万人をこの”千反田えるの物語”に引き釣りこみました。

とはいえ、カプ厨からしてみると、ある意味古典部シリーズが淡い失恋の物語じゃなくて、青春の物語になる可能性がでてきた話でもある。
そこは喜ばしいね。

もう終わり方がクリフ・ハンガー過ぎてねー。
気になって仕方ないなぁ。


総括。

古典部の面々の個別ストーリーが終結したり、千反田えるの物語が始まったりと。
急転直下、驚天動地、生々流転な物語でした。
米澤穂信ゥァア゛ーッ!!
と叫びたくなるような終わり方までしやがって。。。。
続きが気になって仕方ない。

最後のページに米澤さんからのメッセージが添えられてて(bookwalkerで購入、紙版についてるかはしらん)
「少しずつ書き溜めてー」とあるので続きはまた長く掛かりそうですね。。。
彼らの行末をという言葉に「せやね!」って思いました。
米澤さん。わたし楽しんで読んだよ!!すっごい楽しんだよ!!!


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=>古典部シリーズおすすめ!この短編集読む前にちゃんと読んどこうな!

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=>新作「米澤穂信と古典部」の感想はこっち
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