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citrussinのチラシの裏

ゲームや読書感想、日々のことを適当につづる日記。TwitterID @sinensis197

複雑に絡み合う感情の恐ろしさと素晴らしさを描くハーレムラブコメ×ミステリーロマンスの傑作。野村美月「ヒカルが地球にいたころ……」は男女問わず読んでいただきたい良作ラノベ。

ーーー今度、赤城くんのクラスに教科書を借りに行くよ。その時、君に頼みたいことがあるんだ。

源氏物語を元ネタに据えた作品は数あれど、ラノベの中の名作といえば一番に出てくる傑作小説。
儚く、淡く、切ない光源氏とその花達の物語を光源氏がいなくなった後に収束させていく物語。
熱い相棒ものと、シリアスな恋愛ドロドロもの、そこにミステリーというエッセンスを加え、ハーレムコメディなのにここまで儚げに書けるのはこの人ならではだなと思います。
文学少女シリーズで脚光を浴びた野村美月の傑作ミステリーロマンス×ハーレムラブコメ「ヒカルが地球にいたころ……」
男女問わず読んでいただきたい傑作です。

"葵" ヒカルが地球にいたころ……(1) (ファミ通文庫)

まず4~5ページ目を開いた瞬間からですよね。
意味が不明です。読めば読むほど謎に包まれた文章が待ち構えています。
一応中盤で答えが見つかったような気がしますがすぐにひっくり返されます。
最後までのトリックがわかるのは敏い人で9巻、、、いやもしかしたら8巻でわかるのか。。。。。私は種明かしまで読んでようやく理解しました。
皮はハーレムでラブコメだし、中身はシリアスな学園ロマンスだけどまさしくミステリーでもありますね。


あらすじ

ーーーぼくは、ぼくを幸せにしてくれた花たちに、優しいさよならをあげたいんだ。
ーーー彼女たちが泣いたり苦しんだりせず、晴れやかな気持ちで未来へすすめるように。とびきりのさよならを贈りたい。

友達を欲しながらも高校デビューに失敗し、強面の顔から不良と誤解され、周囲から避けられている赤城是光。
彼はある日、学園中で浮名を流す”学園の皇子”帝門ヒカルと顔見知りになる。
その端正な美貌とふくよかで甘い声、女性を慈しむ心意気からヒカルは大勢の女性と交際していた。だが、本当は彼も友達を欲していたのだ。
期せずして出会った友達を欲しがる二人。しかしヒカルは、是光と本格的な親交を築く前に突然の死を遂げてしまう。
多くの女性が涙をながす葬式に顔を出した是光だが、何故か死んだはずのヒカルがそこにいる。彼は幽霊となって是光に取り憑いてしまったのだ。
彼の願いは一つ。
「自分が残していってしまった花たちの未練を解決したい」ということ。
強面で人付き合いが苦手という弱点を抱えつつ、是光はヒカルの複雑怪奇な女性関係に巻き込まれていく。

表面的には幸せそうな学園の皇子。16歳で死ぬまでの、そのあまりにも絶望的で、あまりにも狂おしい世界を支えた花達がいました。
1巻ではヒカルの”希望”であったタチアオイ
2巻ではヒカルの”癒やし”であった夕顔
3巻ではヒカルの”喜び”であった紫草
と、1巻ごとに”ヒカルの”ヒロインだった女性が花になぞらえて登場します。
源氏物語のヒロインと同じ名前ですね。
あ、想像できるかもしれませんが、ちゃんと是光にも紫式部の名を冠したヒロインがいます。
ヒカルの世界に引きづられてか、彼女たちもヒカルのいない世界であらゆる困難や未練を抱いています。
それを幽霊のヒカルとともに、彼の唯一の友達として是光が解決していく話となります。
”前半までは”
そしてヒカルの心残りを晴らしていく傍ら漂っていた不穏な空気が、9巻の終わりから急転直下。
10巻のラストで綺麗に終わります。
ここまで絶望的で終わってしまっている話を誰一人見捨てることなくハッピーエンドに認めたのはさすが野村美月先生。相変わらずいい小説書きます。
綺麗に貼られ、芸術的なまでに回収されていく伏線や、美しいプロットはこの人ならではですね。文字からそこはかとなく優雅さが漂います。
ていうか、9巻の題名があの”六条”ですからね。
あーーー・・・ねえ?

まごうことなきハーレムラブコメ

1巻の顛末から葵の上に気に入られてしまった是光。
初恋の女性夕顔に、愛人志願の月夜子。妹キャラに収まった若紫。
ハーレム皇子の残した花は非常に美しく、彼女たちは次の恋に生きようとします。
そしてそれが面白く無い式部。是政がモテるたびに嫉妬しちゃうんですよね。
ハーレムハーレムしてます。
また個々人の事情や繊細な感情、ヒカルとの関係が入り乱れていて一筋縄でいかないところが面白い。
弱々しく見えても実はしたたかで、強く見えても傷つきやすく、揺れ動く女性の魅力が十二分に伝わってきます。
女性の二面性を魅力的に書かせたら本当に野村先生はうまい。
女の子の問題を解決するたびに増えていく女性関係。
近くにいるヒカルもそれが彼女たちの幸せならと大応援。
そもそもヒカルには本命がいたわけで、彼女たちは花だったわけですから。
これでもかといういろんな魅力にあふれたヒロインたちによるラブコメが楽しめます。
でも背後にはドロドロした柵もあったりして単純に萌えている場合でもなく、それがまた魅力を引き出しているんですよね。
まごうことなきハーレムラブコメ作品です。
名前からしてメインヒロインは式部なのですが、夕顔や葵も一筋縄では行かず。それに若紫の強かさも油断できない。
逆を言うと、みんな可愛すぎてちょっとつらいです。
ただただかわいい恋する女の子たちを見るだけでも楽しい作品。


男二人の友情関係が熱い

ハーレム皇子と名を轟かせ、様々な女性の口説き方に精通したヒカルですが、特別な花に対しては実は勇気がない少年であることが露呈します。
そして普段は女性を含め人付き合いが苦手でぼっちになりがちな是光ですが、いざというときは勇気と決断力に優れた男前でもあります。
この二人の普段の掛け合いや、いざというときのやり取りがすごく楽しい。
例えば1巻。葵にその心を信じてもらえずどんどん傷つけていってしまい、ヒカルが諦めるんですよ。
「もういいんだ。無理だったんだ。幽霊の声は聞こえない、彼女に何もしてやれないんだ」って。
でも是光は諦めずに訴えるんです。
「お前の声はちゃんと俺に聞こえてる。俺のココに届いている!」
で、それを聞いてヒカルがすがるんですよ。
「頼む。。。。是光」
このやり取りが大好きですね。
普段はヒカルに振り回されている是光がいざというときはヒカルを思いやって一歩前に進ませるんですよ。
そうして二人三脚で無理難題を解決し、ヒカルの花達を咲かせていくんです。
最初はぎこちなく知り合い程度であった二人がどんどん親友になっていく描写がそこらかしこに現れていて。
最初は人間関係がどうしようもなかった是光が、9巻すぎぐらいでは逆にヒカルを助けられるぐらいに成長しているのです。
その成長と、最後は全力でヒカルを支えて一番の思いを一番の花に届けるシーンはぐっときました。
そしてタイトルから分かるように「ヒカルが地球にいたころ」と過去形なんですよね。
別れが決定づけられているわけです。
10巻ラストは必見。うっとおしい幽霊だった知り合いが、いつの間にか親友になって、そしていつかは別れる。
ああ、最高のパートナーだったんだなーと。10巻あとがき前、物語の最後のページを読んだ瞬間いろいろな情景が頭に浮かんでしまいました。



そして悪意と善意が入り乱れるミステリー

まさかまさかの連続です。
如何に悪意とは人を絶望に押しやるか、狂った人間が怖いかを目の当たりにするでしょう。
人のトラウマを刺激しヒカルの花達を摘み取ろうとする悪意が存在しています。
その悪意は巻を追うごとに増し、ヒカルと是政を何度も打ちのめします。
それになんとか抗い、二人で立ち向かっていくところが醍醐味。
どんどん複雑になる人間関係と、悪意の大元を予測するミステリーでもあり、完全なる謎に包まれたヒカルの死の真相を暴いてしまう物語でもあります。
けれど、そんな悪意いっぱいの話の中でも最悪の悪人も、最良の善人もいない。っていうのがすごく面白いですね。
たとえば虞美人草の正体と未練とか。あの持って行き方からのラストは中々背筋が寒くなりました。
あーやっと解決した。。。。。あれ?え、、、ええええええ!!
みたいな。
そんな悪意と理不尽への怒りに震えるところからの救済はカタルシスがすごいです。
多くの理不尽押しのけて優しいサヨナラを実行する是光の男らしさに惚れる。
そしてなんといっても最後は今まで助けてきた女性たちが助けてくれるところもいいですよね。私こういう展開好きです。
みんな男らしい女の子たち。強かさが素晴らしい。
ある意味男性陣のほうが男らしくない場面が多いなこの作品。
ヒカルの死によって吹き出した様々な問題と、大本の様々なベールに包まれたヒカルの死の真相を追うミステリーとなっています。
できればこの善意と悪意で舗装されたミステリーを一気に読みきっていただきたい。



それにしても物語の根幹をなすある”感情”がすさまじい作品でした。
特に最後の藤壺がやばい。ヒカルの死の真相とそこに至るまでの経緯には納得しながらも背筋が寒くなりました。
今までこの作品で訴えていた綺麗なものが一変してどうしようもない黒いものに染まるというか。
しかしだからこそ、ヒカルと是光の出会いの奇跡というのが尊いものだったんだなーと思いました。
最後のヒカルの独白からのエンディングは涙をボロボロ流しながら読みましたし。
もう取り返しがつかないヒカルの死。謎に包まれたその真相を知り、そしてヒカルに関わったみんなが救われていく物語。
「ヒカルが地球にいたころ……」
もし気になったら一巻からでもぜひお手にとって見てください。



"葵" ヒカルが地球にいたころ……(1) (ファミ通文庫)